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ガンギマリズム  作者: 九空のべる(旧:ジョブfree)
第一章「便利屋のやべーやつ」
17/54

12.遭遇、同級生・下田七海!

12


季節が春だからと言っても未だ3月である。夜の街中を歩く漆紀は少々肌寒く感じていた。どこかから街中へと吹き通る夜風は責め立てているようで漆紀は露骨に不機嫌なままラーメン店までの道を歩く。

(やっぱり、夜だと店の近辺に路駐してるバイクが全然ない。やっぱり、あいつら何処かへ行ったな)

それを見て安心すると、漆紀はラーメン屋に入る。

「いらっしゃー!」

店主が漆紀の顔を見ても昼の騒動を思い出す様子は見受けられない。漆紀の顔を見たのはほんの一瞬、あるいは店主に関しては漆紀の顔までは見なかったのかもしれない。

店内には数名の客が居り、テーブル席とカウンター席合わせて7割ほど既に客が居る。夕食時の時間としては控えめな客の人数であろう。

カウンター席に座ろうと思って視線を移すと、そこには見知った顔が居た。

「あっ」

「あっ、よお辰上。ん? なんかいっぱい怪我してないか?」

そこに居たのは漆紀が通う高校の同級生である下田七海(しもだ ななみ)であった。女子生徒なのだが、本人の陽気でライトな話し方や空気感が男子のソレに近い。そのため漆紀のみならず他の男子にとっても話しやすい女子であり、学校社会においては人間的に上層に位置する存在といえる。

「下田か。このラーメン屋知ってたのか」

「まあね。となり来る?」

「良いのか? じゃあ、お邪魔するぞ」

同級生に対し自然に友好的に振舞えるのが彼女の強みなのだろう。漆紀はそれに甘え隣のカウンター席に座った。

「で、アタシならまだしも普段陰キャっぽい辰上がなーんで夜の街にいるのかな?」

茶化し気味の声色で問いを投げる七海だが、七海は別に漆紀が夜間外出している理由など気にしていない。

しかし漆紀は七海の予想を裏切る返答を返した。

「あまり大きい声じゃ言えないけど……実は昼間にこの店に来たけど、ゾクが居てさ。目ぇつけられたから逃げたけど結局喧嘩になった」

話し相手が大人ではなく同級生というだけで気が許せるからか、漆紀は昼間の出来事を七海に話し始める。他の客の雑談や店員が調理する音があるため、漆紀は七海に近付き小声で話す。

「喧嘩? え、どうなったワケ? ちょっと予想外なんだけど」

七海は目の色を変えて漆紀に対して逃がすまいとする程に興味が湧き立つ。

「その前に注文していいか」

「あ、うん」

漆紀は店員を呼ぶと「魚介ラーメン味玉付き大盛で」と注文を伝える。店員が去ると、漆紀はセルフサービスの飲み水をコップに注ぐと七海へ話の続きをする。

「俺さ、この辺を縄張りにしてる夜露死苦隊って連中に一方的に因縁つけられちゃってさ。喧嘩になったけど、やり返して逃げた」

「へー……意外だなぁ。辰上そういう事と縁がないと思ったけど」

「正直こんな縁無い方が良いんだけど。家族相手に話してもマトモそうな答えしか返さないし、かえって他人に話したくなった。そんだけ」

「えー、詳しい内容は? アタシその辺聞きたいんだけど」

「詳しい内容って言ってもなぁ。そういえばさ、下田はゾクに絡まれた事とかある?」

「アタシ? あるっちゃあるけど……アタシはね、とにかく逃げの一手かな」

「普通に逃げても追いつかれる事とかあると思うんだけど」

「ほら、パルクールってやつ? 変なところ登ったり走ったりして逃げてる」

七海が漆紀に抱いた感想と同様に、漆紀もまた七海の回答に対して「意外である」と感想を抱いた。

「すげえな。どこで習ったの?」

「我流。しいて言えば動画見て学んでいったかな。ちゃんとした先生がいなくて動画なんかで学べるのかーって疑問なカオしてるけど案外動画でも練習重ねれば本物に近い技術を身に付けられるよ」

「それは……下田に結構才能があったんじゃないか? 俺にパルクールは流石に難しいかなぁ、あれって案外筋肉も要るって聞くけどなんも鍛えてないからなぁ」

「あっ、注文来たよ」

厨房側を見ると、店員がラーメンを完成させてこちらに運びに来ている。

店員が漆紀の前にラーメンと伝票を置くと、早速漆紀は割り箸を割ってラーメンを食べ始める。

「食べ始めたところ悪いけど、夜露死苦隊って暴走族の話だったよね?」

「ああ、それそれ」

漆紀は一口麺を啜って素早く噛んで飲み込むと、七海に話の続きをする。

「あいつらと戦ったってのを家族に言ったらさ、どうにもこうにも面倒臭いことになって……今の俺、家出に近い状態かもな。どうしようもないから最終的には帰るけど、もうしばらく街をブラつくつもり」

「ふーん……夜露死苦隊に狙われてるのに街歩くのー?」

「あいつらが勝手に執着して狙って襲って来てるだけだし、なんで俺が遠慮しなきゃいけないんだろうって家族に話したらモメてさ……悪いのは全部夜露死苦隊だっての!」

一通り話していくと、七海はこれまで単なる一クラスメイトとしか思っていなかった漆紀への認識を改めた。七海にとって現状の漆紀は非日常に身を置く興味深く愉快な存在に見えた。

「じゃあさ、提案! アタシの分のこのラーメン、奢ってよ。そしたらアタシが同行してやる」

「同行って……夜露死苦隊と喧嘩になるかもしれないんだぞ?」

「良いって良いって! ストレス発散に楽しそうだし!」

「ストレスなさそうに見えるけどなぁ下田。その物言いだと、夜露死苦隊と出くわした途端にあいつらと喧嘩する気満々みたく聞こえるんだけど」

「その気だよー。たまにはアタシも暴れたいなーって」

「……わかった。その気なら良いよ、俺が奢るだけで仲間が一人増えるなら助かる」

漆紀は七海の提案を受けて承諾し、行く宛てなき夜回りに興じる事にした。そうと決まると、漆紀はまた麺を啜った。

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