8.奔放な漆紀
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翌日、相変わらず漆紀と真紀は便利屋タツガミの事務所で留守番をしていた。
「あれ、お兄ちゃん今日はキューブやらないの?」
「なんか一気に冷めた……やりたくねぇ。それよりアレだ、出かけたい」
「は? だからさ、出かけたら夜露死苦隊に見つかるっての。そしたらまたボコボコにされるよ」
「うーん……変装すっか。グラサンある?」
「ねえわアホ! お兄ちゃんさぁ、もうちょっと自重っていうか、我慢効かないわけ?」
変装以前に外に出るなと言われてしまう漆紀だが、漆紀自身は自分が悪いとは思っていない。爆弾を運ばされていたとは知る由も無いし運んだだけに過ぎない漆紀に当事者意識はなく、あくまで抗争に巻き込まれた一般人という心境であった。
(そもそも便利屋以外でも運び屋にしたって、郵便局以外はみんな怪しい品も運ぶなんてのはザラじゃないか。クラスの田中とか伊藤も普通に配達仕事でヤバいもん運ぶのはよくあるって言ってたし、俺が悪いわけじゃないだろ)
結論を言えば貧乏くじを引いてしまっただけだ。ただその貧乏くじが景品として暴走族・夜露死苦隊が付いてきた事まではあまりに不幸としか言い様がない。
「やってらんねぇー。なんであんなゾク連中に俺が合わせなきゃならねぇんだ。だんだんムカついてきた。やっぱ出る」
漆紀は衝動的にそう思って立ち上がると、事務所の出入り口の扉に手をかける。
「ちょっとお兄ちゃん本当にヤバいって! 夜露死苦隊って、百人以上居る暴走族でしょ? 絶対バレるって、時々外からバイクの爆音が通り過ぎてったりしてるじゃん!」
事務所で留守番中、近くの道を爆音で走るバイクがこれまで3台ほど通り過ぎていた。音からして明らかに暴走族の類いであり、漆紀を探しているのだろう。
「最悪の場合はよ、警察署に逃げる」
「け、警察署!? それこそ危ないじゃん! 下手すると暴走族を見た警察がお兄ちゃんを口実に巻き込み逮捕とか巻き込み発砲やってくるかも」
「まあよ、テレビで報道された事がある黄色猿とか死須吐露威と比べりゃ小さい暴走族だし大丈夫、へーきへーき。ちょっと昼飯食ってくるわ」
漆紀がそう言って事務所を出ると、真紀は頭を抱えて深く溜息を吐く。
(マジで何考えてんのあのバカ……どうしよ、お父さんまだ仕事で出てるし)