サウナ回1
Bー3隊の隊室には、サウナがある。
「いやなんでだよ……」
「前隊員の髑髏躑躅蹴鞠さんが自費を投じてつけたようですね。よほどハマっていたのでしょう」
「まあなんにせよ、あるなら使ってやろうぜ!」
それで、水を入れたり熱くなるまで待ったりなんだりして、三十分後。
「いやなんでだよ……」
「あ? ならテメーが出ていけや」
僕らは今、全員が身体にタオルを巻いた状態で一緒にサウナに入っている。一応隊員が一緒に入ることを想定して作られてるみたいで三人はちょうど入れているが……。
「いや、それはちょっと……」
ニート&フリーター時代からサウナは僕の心の癒しだったのだ。バイトに行けないときもサウナにはいけた。そこからメンタルを回復してバイトを始めたことも何回もあった。
親の金で行くサウナ……。
「うっ、頭が……」
「だ、大丈夫ですか? のぼせたなら一度そとに出た方が……」
僕の左側にいる水沼観月さんが心配してくれる。白い肌が熱のせいで赤みがかってとてもかわいい。身体に巻いたタオルはぴったりと張りつき、それほど大きいとは言えない胸を覆い隠している。
「大丈夫。ありがとう……。まあとにかくサウナに関しては譲れないね。そもそもじゃんけんに勝ったの僕でしょ」
「あ? テメーが満足するまで何分だ? 待ってられっかよ」
僕の右側にいる唯我桃さんは普段結んでいる長い髪を下ろしている。艶があり、よく手入れされているとわかる綺麗な髪が、よく焼けた小麦色の肌と真っ白いタオルに映えている。
そしてかなり大きな胸はタオルでは隠しきれず、深い渓谷が見えている。
「……一時間くらい?」
「ざっけんな」
僕の目線を逸らしながらの答えに唯我さんは吐き捨てた。その時の僕のぎこちない態度に気がついたようで、唯我さんはニヤーと満面の笑みを浮かべた。
「え? いま胸を見てたっしょ? それで緊張しちゃったの? え、童貞? 童貞なの?」
「ち、ちがう」
僕は誤魔化すように答える。とはいえ本当に僕は童貞ではない。
二十代の初めあたりにバイトの金を握りしめて行ったソープ。最初は最高だったけど、二回目でひどい目に遭って以来、行かなくなった。
「……どうせ素人童貞だろ? なあ」
なぜか唯我さんが焦ったように僕の腕を掴む。僕はどぎまぎしながら、この話を終わらせるためになんとか話を逸らそうとする。
「そ、そうだけど……、なんで焦ってるの?」
「だよなぁ、よかったぜ。……よかった? なんでだ?」
誘導が上手くいって唯我さんが腕を離し、自問自答を始める。その反対側から、水沼さんが同じく腕を掴んで話しかけてきた。
「……私はそれでもいいです」
「ん? ありがとう?」
今ので素人童貞ってこともバレたし、二十九歳素人童貞もチームメイトとしてちゃんと受け入れてくれるってことかな? ありがたやありがたや。
「それにしてもあれから三年か……早いね」
「……あの髭もじゃのおじさんがまだ二十代だったとは驚きました」
「よくわかったよね」
C級訓練生の時に、あの時の人ですかと聞かれた時は驚いたものだった。僕の方からは見間違えるはずもないが、初めて会った時の僕はニートで髭を伸ばし放題にしていて、顔の形なんかわかるはずもなかったからだ。