VS 唯我桃2
唯我さんの周囲で複数の《爆心》が発動し続ける。尽きることなく……無尽に。
〈最も重きは愛なりて〉の効果が唯我さんの言った通りなのであれば、重さの増加による防御は唯我さんの体にも負担となってのしかかるはずだ。このまま唯我さんを動かさず、殺気を削りながら、自身の殺気の重みでつぶれてもらう。
「でも、キッツイなぁ……殺気の消費もえげつないくらい速いし……」
しかし数秒後、僕の考えを察知したのか、唯我さんは加重を緩め、〈剛〉の出力を上げて《爆心》の隙間を無理やり抜け出してきた。無傷ではないが、まともに食らったのは最後の一瞬だけ、それもかなりの出力の〈剛〉の上から、ということもあり、大ダメージというほどでもない。
「エグイこと考えるなァッッッ!」
楽しそうに笑いながら、唯我さんは高出力の〈剛〉で一気に距離を詰めて来る。
「《爆心》」
僕は唯我さんのすぐ目の前、そして僕にとっても目の前になる位置で出力を高めた《爆心》を発動した。唯我さんは一瞬〈術〉を発動することで《爆心》に耐える。
そして僕は自分の爆撃をあび、後方に吹き飛んだ。
「おい! テメェも食らってんじゃねーか!」
「君の一撃を貰うよりましだよ」
距離が出来、再び《爆心包み・無尽》が唯我さんを襲う。抜け出してきた唯我さんから同様に《爆心》による自爆で距離を取る。
唯我さんが何かをしてこない限り、このループで唯我さんを削りきれる。
「あぁ……そうかよ」
三度目に《爆心包み・無尽》から脱出した後、唯我さんは僕のやや手前で跳躍した。僕の斜め上から〈最も重きは愛なりて〉を発動しつつ、緩やかな放物線を描いて近づいてくる。
「僕と唯我さんの間で《爆心》を使うと僕が押し出される方向は斜め下……距離を取るなら《爆心》を使う場所は……」
僕は自分の正面で《爆心》を発動した。唯我さんへのダメージはかなり小さくなったものの、僕を大きく後方へ移動させる。
そしてまた、崩れた体勢から唯我さんに視点を合わせようとした時だった。
「えっ?」
僕のいた場所に着地していた唯我さんが、その場でバールを振りかぶっている。
「ナイッッッッピィィィイイイッッッッ!!!」
そう叫びながら唯我さんは、綺麗なフォームでバールをぶん投げた。
殺気を纏ったバールは真っ直ぐに飛び、体勢の崩れた僕を強襲する。
「ば、《爆心》っっっ!」
僕はとっさに自身を中心に、最大火力の爆発を発生させた。
が、殺気に覆われたバールは爆発を貫通し、僕の交差させた腕とその奥のあばらを圧し折る。
「がっふ……」
バールが地面へと落ち、鈍い音を響かせながら地面をバールの形に深く陥没させる。僕はその上に膝から崩れ落ちた。もう動けそうにない。
ゲームセット。僕の負けだった。
うずくまる僕を見下ろしながら唯我さんが歩いて近づいてくる。
「バールは私と違って最大重量まで重さを加えても潰れないからなぁ、便利なんだよ」
うんしょ、と僕をどかした唯我さんは、バールが沈んでいる穴に腕を突っ込んでバールを掴み出す。
立ち上がって肩にバールを担ぐと、倒れたままの僕にニカっと笑った。
「まぁでも結構楽しめたぜ? これからよろしくな、沁」
そこまで言ったときに、こちらに駆けてきていた水沼が到着した。
「治療班は呼んでおきました。それから唯我さん」
「なんだ? お前もやるか?」
「違います。この訓練場では〈放〉系統の能力の水平投射は禁止。殺気を付与したバールの水平投擲も一緒です」
「あ」
「唯我さんの反則負けですね」
「なっ、そ、それは違うだろッ」
「どう違うんです? 先輩が受けなければ訓練場の金網を破壊して、どこまで飛んでいったかわかりませんよ? その先に入りたてのC級や事務職員がいたらどうするつもりだったんですか?」
「うぎぎぎぎ」
そんな唯我さんが水沼さんにやり込められている微笑ましい様子を見ながら、僕は気を失った。