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VS千本桜良7

 千本桜の《虚穿》は受け流しの時などに使う殺気を流す技術を応用して、貫き手の先から殺気を放射状に流すことで貫通力を得ている。その貫通力ゆえ、防御には使えない。貫いたものがそのまま自分の身体に降り注ぐからだ。

 それゆえ千本桜の第一の防御手段は左手の〈勿勿忘草〉となる。

 射線を遮るように突き出された左手は、しかし桜君の《空撃》によって弾き飛ばされた。

「つ、……」

 千本桜から舌打ちが漏れる。僕の視界の端にはよくわからないジョジョ立ちをキメている桜君が映っていた。

「やっちまいな」

 風の流れに乗ってきたのか、そんな囁きが聞こえてきた直後、僕は殺気の奔流を解き放った。

 本来広がるはずだった衝撃波が一点に集められ、一直線に千本桜の胸の中央を襲う。千本桜は身体をひねり、次いで殺気を流すことで受け流そうとする。

 でも。

「僕だって〈操〉遣いなんだぜ……っ!」

 流れに逆らうように。

 千本桜の身体へと抉り込ませるように軌道を必死に捻じ曲げる。

 それほど大きくは曲げられない。しかし千本桜の左胸の上部から左肩を穿つには十分だった。

「君は本当に……ッ、でもこれで終わりだろッ!」

 右手の〈虚穿〉を振るうように見せかけて。

 千本桜は身体を一回転させ、僕の両脚を薙ぎ払った。

 宙に浮く僕の身体。そして直後に地面からにゅぷりと出てきた泥の手が僕の脚があった空間を掴む。

「泥には潜らせないよ」

 好戦的に微笑んだ千本桜はこんどこそ〈虚穿〉を空中で横倒しになった僕のみぞおちへと突き放つ。

「ぐっぷぅ……ッ」

 豆腐に指を突き立てるように、ほとんど抵抗なく千本桜の右手は僕の身体へと吸い込まれ、そして内臓を撒き散らしながら背中から飛び出した。喉へと逆流する血と臓物が熱い。

 この熱さを感じなくなった時が、僕の死ぬ時だ。そしてそれは恐らく十秒後か、二十秒後か。

 それまでに、やれることはやる。

 僕は四肢の全てを使い、目の前の千本桜に抱きつく。半ばから失われた右腕も使ってだ。同時に全身の殺気出力を高める。

「ふっ、悪足掻きのつもりかな? さっきのあれでしょ? させないよ」

 千本桜は高速で身体を回し《廻天》で僕を弾き飛ばす。僕の腹に突き刺さったままだった腕は回転の勢いで僕の左脇腹を引き千切っていった。

 右脇腹でしか上体と下半身が繋がっていない僕を、地面の泥の中から空中に飛び出してきた誰かが受け止める。全身血まみれの、辛うじて意識を取り戻したらしい唯我さんだった。

「わたしの初めて、くれてやる」

 そう言いながら僕の身体に流し込んでくるものは唯我さんの殺気だった。残り僅かなはずの唯我さんの殺気。他人への付与は初めてなはずなのに、ぎこちないながらも僕は自分の殺気が回復していくのを感じる。流石は〈与〉の純適性(ピュア)といったところか。

「ありがとう。これで……完璧だ」

 僕を見上げる千本桜の頭上に、殺気の星を出現させる。莫大な出力を込めて。

「〈爆心・轟〉は遠隔でも発動できる」

 その出力から千本桜はさっき大ダメージを受けた僕の殺気術を思い出したはずだ。全てを忘却させる左手でその殺気の星を握りつぶそうとする。 

 しかし、先ほど〈劫心・閃〉に肩を抉られたせいで千本桜の左腕は上がらない。右手の〈虚閃〉は防御には使えない。

「舐めないで、ほしいな」

 千本桜は〈操〉で左腕の殺気を操作し、無理やり左腕を上げる。そしてその先の星を握りつぶした。

 殺気をほとんど使い果たし、気を失いかける僕に対し、千本桜は微笑んだ。

「よく頑張ったけど、これでーー」

「チェックメイトだぜ」

 宣言とともに、千本桜の足元の地面が泥と化して左右に避け、桜君が姿を現す。その手の中には桜君の純適性(ピュア)の〈陰〉によって爆発寸前まで存在を隠された、僕の二発目の〈爆心・轟〉があった。

「耐えてよ、桜君……《爆心・轟・双星〉」

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