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VS千本桜良4

 完全に攻撃に殺気を割り振っていた二人は横殴りの《劫心・洪》を受け、床を滑る。僕の左右まで吹き飛ばされてきた二人は手をついて血を流している上半身を起こし、膝をついたままで千本桜を睨みつける。

「チッ……」

「ご、ごめん!」

「いや、多対一で戦っていればこういうこともある。気にするな」

 僕の右で桜君が険しい顔を千本桜に向けたまま応える。反対側では唯我さんが苛ついた棘のある声で叫んだ。

「なんだアレ! 《重クォータースマッシュ》が完全に無効化されたぞ!」

「〈勿勿忘草〉の敷衍術……、運動エネルギーを忘却させる、ってところか?」

「はァ? ありえねぇ、オカルトだろ!」

「それは殺気術は全部そうなんじゃ……?」

「俺の〈物騙り〉にも似たようなモノがあるからわかる。ある程度の拡大解釈と拡張、そして敷衍。一定以上の殺気遣いには珍しくもない。重要なのはどうするか、だ」

「ごちゃごちゃ話してるところ悪いけど、いくよ」

 浮遊を続けていた千本桜が一直線に僕に向かって突っ込んで来る。反応できた僕も《劫心》で迎撃する。

 千本桜は突進しながら右手を前へ出す。掌に《劫心》が直撃するが、何事もなく、まるで空気を裂くように千本桜は突破してきた。

「そんな簡単に……ッ」

「実は結構うっとおしかったんだよね」

 僕に迫る千本桜に、僕の右にいた桜君が瓦礫の破片を拾い上げて殺気を付与。そのまま千本桜に投擲する。

 眼の端でそれを捉えていたのか、千本桜は払いのけようと左手を振るう。手の甲に当たる直前、破片は急激に軌道を変え、振るわれた左手をかわすと千本桜の頬に突き刺さらんとする。

 その破片を引き戻した右手で弾く。同時に桜君の《空撃》が腹に突き刺さった。

「ぐっ……」

 僕の目の前で千本桜が呻く。至近距離で体幹が揺らいでいる。今がチャンスだ。

「《爆心・洪》」

 千本桜の腹の下。腕を即座には振るえない位置に殺気の星を創成。急激に膨張するそれが周囲のあらゆるものを吹き飛ばす、かのように思われた。

 慣性を忘れたような、人間にはおよそ不可能な動きで千本桜が腕を伸ばす。そして爆発寸前の殺気の星を、握り込んだ。

 爆発は起こった。しかしその衝撃波の全ては千本桜の掌の中で忘却させられ、消失してしまう。

 僕が着くまでの戦いの中でネイルガンは破壊されてしまったのか、唯我さんの手元にはない。しかし釘の束はベルトに吊り下げられたポーチに入っており、唯我さんはそれを取り出し、素早く放る。

 殺気が付与された釘が散弾のように千本桜を撃ち抜こうとする。しかしそれは全て千本桜の殺気の上を滑り、床と遠く離れた一階の天井へ突き刺さった。

 身体を旋回させた千本桜が後ろ回し蹴りの要領で脚を蹴り出す。僕とその足の間に遮るものは何一つない。いや、なかった。

「えっ?」

 僕を押しのけるようにして、足元から千本桜よりも更に華奢な体躯が現れる。水沼さんが僕を庇うように千本桜との間に身体を踊り込ませた。

「なっ、待っ」

 水沼さんの〈剛〉は僕のそれよりも更に薄い。〈剛〉を突き破った千本桜の脚が水沼さんの胸を貫通し、血と肉の飛沫を撒き散らす。

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