VS 唯我桃1
僕達はC級共用のロッカールームから荷物をピックアップし、B-3隊の隊室に置いた後、ほとんど室内を見ないままにB級訓練場の使用許可を取りに行った。
「当日申請だと直径五十メートルの屋外訓練場しか取れないけど大丈夫? 〈放〉系統の水平発射は禁止されてるところだけど」
「僕は大丈夫です」
「私もオーケーだぜ」
というわけで場所を教えてもらい、〈機関〉の広大な敷地内にあるB級訓練場のうちの一つに着いた。簡素な金網で区切られた外にいくつかベンチが置かれているだけの、土の地面の訓練場だった。
「まあ小手調べには十分だろ」
そう言うと、一メートル弱のバールを担いだ唯我さんは金網の開けている場所から入って行った。
「バール……、バールを持ち歩く女子大学生ってなに? いや武器なんだろうけど……」
僕も怯えながら後に続く。水沼さんは外のベンチで見学するとのことだった。
訓練場の中央付近を少し過ぎたところで唯我さんは振り返って立ち止まった。僕も少し歩いて、間の距離が十メートルほどになった時に止まった。C級組手の時の一般的な開始距離だった。
「余計な問答はいらないよな? いくぜッッ!! 〈剛〉ッ!」
「〈剛〉……」
唯我さんは短いスカートとサイドテールの髪をなびかせ、右手に持ったバールを下方に構えながら直進してくる。
いきなり最大火力をぶっ放すのもなんだかなぁなので、僕は唯我さんの進む前方に〈拒絶する心〉を〈創〉でセットした。
本来〈拒絶する心〉は自分を中心として発動する〈術〉だが、離れた位置に殺気を生成する〈創〉と組み合わせることで好きな位置で発動できる。
唯我さんの前方の一点を中心として、球形の衝撃波が発生する。しかし唯我さんは構わず突っ込んできた。〈剛〉の出力はとても衝撃波に耐えられるものではない。
「〈最も重きはーー愛なりて〉!」
「え?」
思わず聞き返してしまうような〈術〉の銘を叫びながら、唯我さんは僅かに跳躍する。そのまま衝撃波をものともせずに突っ切った。
着地すると駆けながら頭上にバールを構え直す。再び、今度は大きく跳躍すると、僕の頭頂部めがけて振り下した。
「《爆心》っ!」
僕は全身を起点に《爆心》を発動する。〈操〉で殺気を操って動き再現した爆発に〈拒絶する心〉を混ぜ込んだ統合殺気術だ。ただし熱くはない。〈創〉を使えば離れた位置で発動することもできる。
強化された爆発の衝撃波が唯我さんを襲う。しかし〈術〉の効果か、唯我さんが吹き飛ぶことはなかった。
爆発の衝撃波は一瞬だ。耐えきられたならば、次の瞬間には僕の脳天にはバールが降って来る。
そのバールを僕は交差させた両腕で受けた。
「痛ッッッ、というか重いッッッ!!!!」
ギャリギャリギャリと重い金属がこすれ合うような音が響く。あまりに重い一撃に僕の足元の地面は陥没した。受け止めた両腕も折れた感触がある。
しかし何とか耐えきる。着地した唯我さんは後方へ跳躍して距離を取った。
「こんなもんじゃねぇだろ? 私は大丈夫だからもっと出力上げていいぜ?」
「……君の〈最も重きは愛なりて〉、効果は重量の増加、かな?」
「あったりィ! まあ一度食らえばわかるわな。正確に言うと『自分の殺気の重さを操作する』だけど」
「……でもそれだと君自身にも影響があるんじゃないか?」
「あるぜ? だけどまあそこは効果を一瞬に絞ったり、〈剛〉自体の力で耐えたりしてる」
見た目に似合わず、だいぶ器用なタイプらしかった。
「あー、あんたのは別にいいぜ。球形の衝撃波だろ? わかりやすすぎるもんな。じゃあ、ラウンド2……始めるけど」
唯我さんはそこでいったん言葉を切ると、凄惨な笑みを浮かべ、冷ややかな口調で続けた。
「殺す気でこいよ? 殺す気でいくから」
僕の頬筋を冷たい汗が流れ落ちた。訓練中の死亡は基本的に事故として処理される。本気で戦わないと殺されてもおかしくない。
僕は唯我さんが駆けだした瞬間に、唯我さんの周囲で複数の《爆心》を発動した。
「おっ」
「《爆心包みーー無尽》」