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VS千本桜良2

 僕は視線だけを上げ、なんとか千本桜を視界に収める。

「……なんだ、これは」

「効くでしょ? 防弾チョッキと一緒だよ。銃弾は防げても、衝撃までは殺しきれない。殺気術と〈剛〉も同じさ。そして僕の殺気術は、その衝撃を内部に伝えることに特化している。発勁みたいなものさ。そういうふうに、殺気を操るんだ」

「操る……つまり、君の適性は」

「〈操〉の一適性さ。一つしか武器がないってクールだと思わない?」

 一つどころか……そう呟こうとしてやめた。もう時間稼ぎは必要ない。

 千本桜の背後の床が泥と化して音もなく盛り上がる。様々な基礎殺気術を併せた統合殺気術《貫國》を右手に宿した桜君が、〈陰〉で気配を消しながら沼の中から姿を現した。裸の上半身から泥が音もなく滑り落ちていく。

 音もなく静かに、必殺の槍が放たれる。連射性を犠牲に必中の速度を誇る桜君の〈放〉の性質を引き継いだ《貫國》。それが一切の気配を感じさせずに音速を越えて千本桜に襲いかかる。

 千本桜は見えず、感じてもいないはずの背後からの《貫國》を、身体をひねることでかわそうとする。接地した状態と同等とはいかずとも、十分に高速である浮遊中の千本桜。

 しかし《貫國》はその速度を遥かに超える。

 千本桜の背を必殺の槍が捉えた。ここで僕は信じられないようなことを目にする。弧を描くように反らされた華奢な背。その背中の上を《貫國》が滑っていく。

 受け流された《貫國》は僕の方へとその矛先を変えていた。片目で見下ろしてくる千本桜の横顔から、僕はそれが故意であることを確信する。

 が、それが分かったところで反応できるようなものではない。

 死。

 それを確信した次の瞬間、僕の視界は黒く塗りつぶされた。

「うぉっ……」

 まとわりつく泥。身体のすぐそばを駆け抜ける《貫國》。視界に明りが灯り、僅かな落下時間の直後に尻もちをつく。

「……千本桜の戦い方から、こうなるかもとは想定していました。だから間に合いました」

 麗水のような心地よい声が聞こえる。地下二階の床から水沼さんが顔を出していた。

「ありがとう。……本当に助かってる」

 実際水沼さんが千本桜の機動力を削いでくれていなければ、おそらくもう全滅している。

「待たせたな」

 泳いで近づいてきたのか、水沼さんの傍から姿を現したのは唯我さんだった。千本桜の攻撃を二度受け止めた腕は、見るも無残に腫れあがり、両脇に垂れ下がっている。

「その腕……」

「ああ。やべぇな。握力がほとんどねぇ」

「最後まで治療させてくださいって!」

 やっと追いついたのか、二人の間に現れた縁下さんが唯我さんを掴んで泥沼の中へ沈めようとする。

「治療は簡易的な〈陰〉の効果もある沼の中でやってくださいね」

「いや二人が揃ったんなら話しながらの方が効率がいいだろ」

 一度完全に沈んだ唯我さんは再度浮上して頭だけを水沼さんの横から出す。可愛い頭が二つ並んでいる。ここだけ見れば牧歌的で平和な光景だ。

「……まず、天羽さんに一つ説明しなきゃいけないのですが、私は今回まともに戦闘に参加できません。沼の中に百体の殺気堕ちの死体があるからです」

「……じゃあ、七瀬じゃなくて水沼さんが」

「はい。工場前で迎撃に遭ったため、地中を潜行できる私が無抵抗の殺気堕ちを沈めていきました。……そろそろ七瀬君が死んでしまいそうです。唯我さんも十全とは言えないと思いますが、治療はいいですか?」

「ああ、十分だぜ。拾ってきてくれた相棒もいるしなァ」

 そう言って沼から出てきた唯我さんの右手には歴戦のバールが握られている。腕はまだ腫れが見て取れるものの、動かせる程度にまでは回復したらしい。

「それでは、逝ってらっしゃい」

「オイ!」

「ふふ、冗談です。私も可能な限りサポートしますので、頑張ってきてください」

 水沼さんも最近は以前みられなかったお茶目な部分が出てきた。唯我さんとは本当に気が合ったようだ。……二人は必ず生かして帰す。

 もし僕も生きて帰れたら……三人で映画でも見に行けたらいいなぁ。

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