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VS海堂王威 Re7

 血を吐きながら右後方に倒れようとしている海堂を見下ろしながら、雀ちゃんは左手を頭上へと真っ直ぐ掲げる。

「すごすぎるぜ、雀ちゃん……」

 その左手に瞬間移動してきた僕は、即座に手を離し《劫心・洪・閃》を構築し始める。

 海堂が一時的に靄のかかったような瞳で僕を見上げる。龍腕の殺気を纏った左腕が半ば自律しているかのような動きで持ち上がり、上半身の大部分を隠す。

「……ッ、《劫心・洪・閃》ッッッ!!!」

 僕の放った一撃は海堂の大腿に当たる。左脚の大腿を半分ほど穿ち、右脚は完全に大腿から失われた。衝撃で吹き飛んだ海堂は僅かに離れた河原と草原の縁で止まる。

 海堂は右手と右脚を失った。左脚もその様子では立つことさえままならないだろう。僅かに盛り上がった土壁に背を預けている海堂は「……へっ」というと血混じりの唾を吐きだした。

「……悪く思うなよ」

 どこか人間臭さも感じる海堂に、躊躇いながらもとどめを刺そうとしたそのとき。

「……俺はここまでか。……あとは頼んだぜ、紅龍」

 海堂を覆う殺気が膨れ上がる。僕は即座に《劫心・洪・閃》を放つも、煌めく鱗のような殺気をごりごりごりと半分ほど穿ったところで止められた。

 海堂は何もしていない。無事だったボトムスのポケット部分から煙草とライターを取り出し、一口吸うと、河原の方へ弾いて捨てた。空を見上げる。

「ふぅ……。王になれよ、良。俺が憧れた、ただ一人の女」

 海堂が目を閉じる。身体を覆う殺気は益々出力を増し、ある神話上の生物を形作っていく。

 逞しい腕や脚、そして悪魔のような翼をも兼ね備えた紅龍は、その殺気で形どられた脚で海堂の肉体を立ち上がらせた。

 海堂が失った右腕と右脚も紅龍の方は殺気で再現されている。

 パチ、と海堂が瞳を見開く。理性を感じさせない濃く暗い紅に染まったその眼で、海堂は僕らを見据えた。

「グル、グォァァアアアアアアアアッッッッ!!!!!!」

 その咆哮は、人体の限界を超えて無理矢理に出しているようで。

「……脚と腕だけだ。致命傷には程遠い。いつか出血で死ぬとしてもそれはここ数十分の話じゃない」

 基礎的な殺気術の一つ〈剛〉には出血を抑える効果もある。

「しゃっきおち……」

 僕と戦った時と比べてかなり禍々しさを感じるようになった紅龍が、その顎を僅かに開く。

「ーーッ! まず、……」

 次の瞬間、めいいっぱいに開かれた顎から《真・紅鳴砲》を遥かに超える〈放〉が放たれる。

 動きから察知した僕は雀ちゃんを抱きかかえながらの横っ飛びてその一撃をかわしていた。

「なにが《真》だよ。こっちのがよっぽど……うぉっ」

 しかも驚くべきことは……その死の咆哮を連発してくることだ。一発一発の射線が読みやすいことでかわせているが、くらえば即死であることには変わらない。

「いや、それはさっきもか……なら戦い方はあまり変わらないのかもな」

 唯一の違いと言えば海堂の身体の全てが、さっきの龍腕なみの防御力を持つ殺気に覆われたせいで、攻撃がロクに通りそうにないっていうことか。

 今の僕達にあの防御を貫ける殺気術はない。《轟》で《閃》が出来ればいけるかもしれないが、あの大出力をコントロールするのは不可能だ。《劫心・轟》すら未だに成功してないのだ。

 紅龍の身体から六匹の《尖蓋翅龍》が生まれる。翅を溶かし、その分の殺気を推進力に変えながら凄まじい速度で突っ込んで来るそれを、雀ちゃんの〈いつでも一緒〉を駆使してかわし、同時に破壊していく。

 トドメの一撃とばかりに放たれた死の咆哮を僕は両手から衝撃波を起こし、その推進力でかわす。両手を使うしかなかったので雀ちゃんは首筋に腕を巻き付けて、僕の身体の前から抱きつくような格好になっていた。

「いがぁいと……きんにぇくありゅんでゃにゃぁ……」

「うぴょ?」

 雀ちゃんさん? 戦闘中に胸元をなぞるのはやめてください?

「さぁ……龍退治だ。次は僕のオペレーションをやるよ」

「いりょきゅはでゃーじょーびゅなの?」

 僕の火力では紅龍の防御を貫けないんじゃないか、そう心配してくれている。

「大丈夫。……僕に考えがある」



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