VS海堂王威 Re1
左腕に抱えられていたぷんぷく丸に莫大な殺気が付与される。雀ちゃんはその殺気に覆われたぷんぷく丸の腕を取ってくるりと一回転すると、その勢いのまま全力で投擲した。
「くりゃあ~~っ!」
紅龍を周囲に侍らせる海堂へと飛翔するぷんぷく丸は途中で姿勢を変えた。頭部から突っ込んでいたのが、身体を百八十度回転させて、足先からになる。ポーズも決めていて、まるでライダーキックのようだった。
回転する時にぷんぷく丸の顔が狂気に染まっているように見えたのは、流石に見間違いだろう。
「……んなとこだろうと思ったぜ」
海堂は微動だにしない。ハンドポケットのまま棒立ちでぷんぷく丸の蹴撃を待ち受ける。
直撃する寸前。紅龍が間に割り込んだ。ぎゃりぎゃりぎゃりと不快な金属音が響き渡った。しかしぷんぷく丸は投擲された勢いも使った全力の蹴撃を完全に受け切られ、地に足をつけた。紅龍が長い身体をしならせ、鞭のようにぷんぷく丸を弾き飛ばす。両腕を交差させて受けたぷんぷく丸は、地に跡をつけながら十メートルほど後退した。
「《紅鳴砲》」
海堂の頭上で開かれた紅龍の顎が光り輝く。以前とは違い、この紅龍は尻尾の一部を消費することもなかった。
「SHOOT」
圧倒的な出力の〈放〉による一撃が、前に出ていたぷんぷく丸とその後ろにいる僕達を飲み込んだ……かのように見えたかもしれない。海堂からは。
「へぇ……成長してるのは俺だけじゃねぇってことか」
「……《劫心・五重》」
ぷんぷく丸の前で発動させた五つの劫心は《紅鳴砲》の威力を周囲へと受け流していた。
「高出力の攻撃は僕が潰す。雀ちゃんはどんどん攻めて」
「りょーきゃ!」
言うが早いか、雀ちゃんは鬼気迫る形相で駆け出す。憎しみと復讐と戦いの愉悦を含んだ狂気の笑みだった。
「《尖蓋龍》」
「それの弱点は知ってる。《劫心包み》」
額が鋭く飛びだした二匹の小さな龍が、海堂の纏う〈剛〉から生み出される。しかし頭部以外が脆いという弱点を知っている僕は、海堂を中心に三方向の劫心をぶつけることで即座に尖蓋龍を破壊した。
「ちっ、ここも射程内か……だが、俺は無傷だぜ?」
常時〈硬〉の練り込まれた海堂の〈剛〉は、生半可な攻撃は全て無効化してしまう。《劫心》程度、何発撃ったところでダメージにはならない。
「でも、雀ちゃんの攻撃はどうかな?」
雀ちゃんは同時に駆け出したぷんぷく丸と挟み込むようにして、海堂の左右から格闘戦を仕掛ける。
「フン……紅龍、くまを相手しろ」
紅龍が牙をむき、ぷんぷく丸に噛みつく。ぷんぷく丸はそれを右腕で受ける。一瞬は止められても、紅龍の鋭く堅い牙はぷんぷく丸が纏う殺気を貫いていく。僅かな時間でその牙はぷんぷく丸の素地にまで到達した。
反対側では海堂が雀ちゃんの獣じみた連撃をポケットから抜いた両手で捌いていた。流石にハンドポケットはやめている。その表情に焦りは微塵もない。
「SHOOT」
連続攻撃の隙を突いて海堂は雀ちゃんの額の前に人差し指を伸ばす。一閃。細く鋭い〈放〉の光線が雀ちゃんの額を襲う。しかし雀ちゃんの適性は〈剛〉〈操〉〈与〉。素早く額に殺気を集めて〈剛〉を厚くし、僅かに後退するだけでその一撃を受け切る。
雀ちゃんの攻撃による海堂へのダメージは一切ない。海堂は余裕の笑みを浮かべる。しかしその顔はすぐに驚愕に染まった。
「ハッ、その程度かよ……ッ?」
「ぷんぷくまりゅっ」
雀ちゃんの伸ばした左腕のすぐ先にぷんぷく丸が突如現れる。瞬間移動したかのような、コマ送りで次のコマでいきなり現れたような、何の前触れもない唐突な出現だった。ぷんぷく丸の右腕は一部えぐられて綿が飛び出している。
雀ちゃんとぷんぷく丸は手を繋いでいた。その繋がった左手から雀ちゃんは更なる殺気を送り込み、ぷんぷく丸の〈剛〉を強化する。
続けざま、ぷんぷく丸は目の前の海堂へ左上段蹴りを放つ。海堂は右腕を上げてガードするが、僅かに顔を顰めた。初めて海堂の身体が揺らぐ。




