VS光ヶ浜透流4
海水が盛り上がり、巨大な鯨のような形をとる。光ヶ浜透流はその頭上に着地した。
憤怒と共に睨みつける僕に、透流は余裕を見せつけるように笑う。しかし僕と目が合った直後、僅かに驚いたように口を開けた。
「おっと、赫眼か……まぁB級が俺に勝とうと思ったら多少殺気堕ちに近づくくらいしねぇとな。しかしこのタイミングで発現するのは出来すぎだが……」
透流はパンと胸の前で手を叩く。鯨の背からまるで潮を吹くように大量の海水が打ち上げられた。
「発現したてならあんま関係ない」
吹き上げられた海水、その水流の一筋一筋が《撃水》となり上空から僕を斬り裂かんと襲う。
「上だけじゃないぜ。《裂波》」
完全に視線も意識も上に向いていたため、〈剛〉の強化が遅れた。足元近くの海水が盛り上がり、薄く研ぎ澄まされて僕の腹を斬り裂く。
「ぐぅ……」
即座に厳爺の殺気によって治癒が始まる。致命傷に至らなかったが体勢を崩されたのは確かだった。迫る幾筋もの《撃水》を大きく迂回してかわせるほどの時間はない。
「くっそ……これしかない」
僕はその《撃水》の群れの中へ飛び込んで行った。鞭のようにうねる水刃の中を、身体一つ分の隙間を見つけて飛翔する。
「ちっ、なぜ急に動きが滑らかに……?」
僕の《劫心掌》を応用した飛翔方法では、細かな軌道調整はできない。腕を突き出した反対方向へ反動で飛行するだけだからだ。腕を動かす間もないほどの短時間での方向転換は不可能だ。掌、と言いながら掌だけ向きを変えて発動することはできなかった。
だから、僕は微細な軌道調整を《小爆》で行った。肩の付近で小規模の爆発を起こし、その反動で体勢や飛翔方向を変える。
「……くそ。だがこれはかわせないだろっ! 《海喰い》ッ!」
巨大な鯨が横向きにその巨躯を倒しながら、左右から迫る咢で僕を喰らわんとする。上下に咢を開き、そのまま僕を喰おうとしたらその上顎で《撃水》が届かなくなり回避も楽になったのだが、そう都合よくはいかないらしい。
上から降り注ぐ《撃水》。左右から迫る《海喰い》。
「……《爆心・無尽》」
僕の前方で無数の爆発を起こす。残りの殺気量が凄まじい速度で減っていく。《撃水》の一部は防げているが《海喰い》を止められるほどの出力はない。だが、数瞬《撃水》から解放されること、そして連続する爆発が透流から僕の姿を隠してくれること、その二つが重要だった。
とはいえ上方には自分の引き起こした爆発の連鎖、左右と前方には巨鯨の顎が待っている。後方には防ぎきれていない《撃水》がなびいている。
僕を喰うために海水から飛び出した鯨の巨躯の下。
海面との僅かな隙間に、僕は身を躍らせる。
「間に合え……ッ!」
倒れ込んで来る巨鯨。おそらく海水に飲み込まれた時点で居場所を察知され、そこでさっきのような水球の檻を作られる。そうなればほぼ確実に死まで詰めきられる。イレギュラーとなった厳爺はもういない。
狭まっていく空間。
が、完全に閉じきった。
僕の足を掠めるように。
そのまま一気に高度を上げる。透流はまだ僕を見失ったままのようで、収まりつつある《爆心・無尽》の方を注視していた。
「……ッ!」
僕は《劫心掌》の出力を上げ、全速力で透流へと降下する。途中で拳を振りかざし、殺気を集めていく。
背後の僕に気がついた透流が焦った表情で振り返った。だが海水での防御は間に合わない。
「…………」
「……あぶねぇ、あぶねぇ。だがこのサーフボードは俺自身の最終防衛ラインだ。お前如きの殺気出力じゃあ、こいつは抜けねぇぜ」
僕の伸ばした拳は透流が乗っていたサーフボードの裏面と衝突し、不快な金属音を奏でていた。
「……関係ないね、僕の〈創〉には」
伸ばした拳の先、サーフボードと透流の間で殺気の星が煌めいた。透流が更に不快気に顔を歪める。
「ちィッ、水よッ!」
「《爆心・洪》ッッッ!!!!」




