VS光ヶ浜透流1
現実。
現実はいつだって非情だ。
「非情で無情で……情けがない。……いや、情けないのは僕か」
僕は、震える膝に手をつき、ゆっくりと立ち上がる。震えが全身へと広がっていく。背中を厳爺に叩かれた。
「おい小僧っ! ビビッてないでシャキッとせんかい! こいつを倒すにはお前の協力が必要……じゃ……?」
「ありがとう、厳爺。でも今僕が震えているのは恐怖が理由じゃない」
「……よく言ったッ! ならこれを持っていけッ!」
再度、厳爺が僕の背中を叩く。すると厳爺の殺気が僕を包むと同時に、残り三割弱にまで減っていた僕の殺気が、一気に七割程度まで回復した。さらに〈剛〉のように僕を覆う殺気からは〈癒〉の気配も感じられる。
「いいか! ワシの殺気術構成は〈癒〉〈与〉〈剛〉〈放〉ッ! 身を守る程度は出来るが、攻撃力はさほどないッ! ワシはサポートに徹するッ! お前がコイツを殺すんじゃッ!」
厳爺はギリギリと歯を食いしばったあと、心底からの憎悪を乗せて、吐き捨てた。
「このド腐れな恩知らずをなッ!」
「……まぁ、悪いとは思ってるんだぜ? でも俺の絶望を、憎悪を、懐疑を。千本桜は肯定してくれた。〈機関〉への復讐を望む千本桜の傍は、俺にとって居心地がよさそうなんだ。……あいつについて行く理由はこれじゃ不十分か?」
僕の脳裏を萬屋さんの思い出が駆け巡る。厳しく指導された記憶、楽しく雑談した記憶、一人で戦っていた記憶。
そして。
悪の思想に触れた記憶がフラッシュバックする。僕が殺気遣いに覚醒した時のこと。つい最近の千本桜との会話。そしてついさっきの真姫さんとの戦い。
「どいつもこいつも……なんで自分の感情なんかの為に他人を殺せるんだ……? 復讐復讐って、死んだ人間がそんなことを望んでいるとでも……? 自分を満足させたいだけじゃないのか……?」
「……ふん。お前だって萬屋を殺されて俺を憎悪しているだろう。なぜお前の復讐は肯定されて、俺の復讐は否定されなければいけないんだ? ……まぁ、反社会的な復讐心に堕ちた……いや、堕とされた人間にしかこの感覚はわからないさ。だからこそ、俺は千本桜の仲間になりたいと望んでいる」
「理性的に考えれば、妹さんの死も仕方がなかったんだと……」
「理性的? 仕方がない? そんなもので俺の心が、俺の感情が! 納得するわけがないだろうがッ!」
憤怒に顔を歪めた透流さんが空中にサーフボードを投げ、その上に両足で飛び乗る。直後サーフボードが殺気に覆われ、その下から大量の海水が流れ出た。
「最近上り調子のB級と、有能なヒーラーである厳爺を殺せば、千本桜から俺への評価もさらに上がるだろうよ。まずは……」
大量の海水は全て、透流さんの支配下にある。凄まじい速度で僕と厳爺さんの間に割り入った海流は、それぞれ向きを変え、僕達を正反対の方向へと押し流す。
強烈な水圧によって二十メートルほど流されたあと、《劫心掌・翔》で水面を破って飛び上がる。巨大な波とサーフボードに乗った透流さんが、僕を見下ろしながら目を細めた。
「飛翔能力を持つお前から潰す」




