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VS二ノ腕真姫3

 先ほどの少女がいたアパートは《巨人女王》の足で僅か数歩の位置にある。およそ一・五秒後にはアパートの上で僕が囚われている足を振り上げていた。

「や、やめてよっ! どうなるかわかってるだろっ!」

「わかって抑えられたら、そもそもドラッグなんかやってないのよ」

 真姫さんは本気だ。まずい。桜君の指示を破って〈轟〉を使ったとしても、胸部の分厚い殺気を貫通して真姫さんに致命傷を与えられるかわからない。失敗した場合は少女の小さな命は、この巨大な女王に蹂躙されて吹き消される。

「くそ……こういうことか……わかったよ。桜君、理解した。絶対に、何が何でも、勝たなきゃいけない時があるっていうことをッ!」

「うふ、うふふふふ。無力感を味わいなさい。目の前で母親を犯されたあの頃の私のようにッ!」

 高く挙げられていた足が下ろされる。六畳一間ほどもある足の裏は確実に少女のいる部屋を粉砕するだろう。少女は現状を理解できないかのように目を見開いて、迫りくる巨大な素足を、その裏に捕らわれている僕を見ていた。

「熱くなるな。賭けに頼るな。考えろ。集中し続けろ。勝利への一点を探し出せ」

 赦せないという怒りとは裏腹に、僕の思考は冷たく、鋭く、研ぎ澄まされていく。集中が空間の一点へと僕を導く。

 先ほどの振り回されているような状況とは違い、今は足の軌道が予想できている。このことが僕の集中に若干の余裕を与えた。

「……《劫心》ッ!」

 少女の僅か斜め数メートル先で殺気の星が煌めく。目の前まで迫っていた《巨人女王》の足はその星から噴き出した横殴りの爆風によってそらされ、少女のアパートの残りの部屋を破壊した。

「……チッ」

 再び真姫さんは足を振り上げさせる。二度目の踏みつけをするつもりだ。しかしその苛ついた内心を表してか、その速度は僅かに遅かった。

「今だ、《爆心・洪》ッ!」

 その僅かな余裕があれば、殺気を練って出力を高めることができる。出力を上げた《爆心》で内側から殺気の牢獄を打ち破る。

「な……」

 真姫さんは驚いた表情で《巨人女王》の素足を見る。しかしその瞬間には真姫さんの目の前まで、僕は飛び上がっていた。螺旋を描くような《劫心掌・翔》の痕跡とともに。

 真姫さんは瞳孔を縮め、目蓋をいっぱいに開いて僕に視線を移す。しかしすぐにその表情は僕を馬鹿にするようなものへと変わった。胸部の装甲を突破する殺気術など僕にはないからだ。

 今、この瞬間にも、真姫さんは心変わりをするかもしれない。僕を捕らえずとも、その足で少女を踏みつぶすかもしれない。人の心を深淵の縁へと引き込むような無力感を、僕に味わわせるために。

「今、ここで……確実に殺す」

 瞳が燃えるように熱い。思考もオーバーヒート直前のコンピューターのように、しかし確実に回っていた。

「〈拒絶する心〉、〈創〉、そして……限界まで絞り込めッ、〈操〉ッ!」

 伸ばした右手の先、十数センチ先で殺気の星が煌めく。その下から支えるように、左手を添えた。

「《劫心・閃》ッッッッ!!!!!!」

 発生した衝撃波が、一点へ向けて放出される。本来全方位に発されるはずだった衝撃波を一点に集めたそれは、数十倍にも高まった出力で《巨人女王》の分厚い胸部を貫き、その奥にいた真姫さんの胸部をも貫いた。

「ごっ……馬鹿な……」

 真姫さんが自分の胸に空いた巨大な空洞を見下ろす。致命傷であることは明らかだ。真姫さんは数秒後に死ぬ。

「だが、その前にお前に絶望を、くれてやるッ!」

 真姫さんは振り上げていた《巨人女王》の足を振り下ろす。狙う先は先ほどの少女だった。

 しかしその足が少女へ届くことはなかった。

「《劫心・三重(トリプル)》……殺気はまだまだ残ってる。そんなことはさせない」

 振り下ろされていた脚の、反対側の脚を横薙ぎに攻撃され、《巨人女王》は体勢を大きく崩していた。倒れゆく《巨人女王》。しかしその体勢を立て直せる時間は、もはや真姫さんには残されてはいない。

 血を吐き出しながら仰向けに倒れていく《巨人女王》の中の真姫さんと目が合う。

「……ごめんなさい。でもあなたが受けた苦しみを他人にも押し付けるのは、自分が傷つけられた分だけ他人を傷つけようとするのは、どう考えても間違ってる」

「はっ、私は他人なんかどうでもよかった。私と……あのクソ男どもさえ、楽しく過ごせていれば、他のクソみたいな奴らなんて、どうだって……」

 瞳の光が消え、《巨人女王》が姿を消す。真姫さんはそのまま落下していき、破壊を逃れた一軒家の小さな子供用プールの中にその身を横たえた。 

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