VS二ノ腕真姫2
《巨人女王》の攻撃速度はそれほど速くない。避けようと思えば避けられる。
「でも……そんなわけには……」
周囲にはまだ逃げ遅れた人達がいる。戦闘の余波を最小限にするために、僕は攻撃を防ぎ続ける。
「これなら、どうだ?」
僕は《劫心掌・翔》で《巨人女王》の上まで飛び上がる。上への攻撃であれば、周囲への被害は抑えられるはずだ。
真姫さんは地上の民間人と僕を見比べて一瞬躊躇う。民間人を狙えば、僕は盾にならざるをえず、攻撃を当てやすくなる。しかし故意に民間人を狙ったということで〈機関〉に非常に重点的にマークされる。それは真姫さんくらいの実力の殺気遣いにとっては致命的だ。
翻って僕には攻撃をかわし続けて萬屋さん達を待つという選択肢があるように思える。しかしそれは真姫さんにとっての死を意味する以上、僕がその手を取ったら真姫さんはなりふり構わず周囲をも攻撃し始めるだろう。僕に攻撃を止めさせ、後のことよりも今を生き残るために。
逡巡の後、真姫さんは攻撃対象を頭上の僕に据える。僕も攻撃を回避するのではなく、《巨人女王》を撃破するために、思考を巡らせ始めた。
《巨人女王》の鞭が振るわれる。僕はそれを《劫心》で防ぎつつ、《劫心掌》で垂直降下して真姫さんのいる胸部分を中心に攻撃を加える。しかし分厚い胸部が攻撃を通さない。
「クソ……だからそこにいるのか……」
真姫さんは身体の前面付近にいる。なので背面からの攻撃でも真姫さんまでの距離はさほど変わらない。
「ちっ、ちょこまかと……」
身体の周囲を飛び回る僕に真姫さんは舌打ちをする。
「おい、わかってんだろうなぁ?」
その明言はしないものの、十分に伝わる脅しに僕は動きを止めた。くそ……この程度も駄目なのか。
「それでいいんだよォッ!」
《巨人女王》の身体が回転する。一瞬背を見せ、その向こうから姿を現したのは、造形美を感じるたたまれた長い脚、その履いているブーツの底。
繰り出される回し蹴りに対して僕は《劫心包み》で防ごうとするも、勢いを殺しきれず正面からまともに食らい、蹴り飛ばされる。遠くまで飛ばされる前に体勢を立て直して《巨人女王》の前に戻らなければ……そう思ったが、僕がなにかする必要はなかった。吹き飛ばされていた僕の身体が、なにかに絡め取られたかのように勢いが止まる。
「……?」
視線の先では《巨人女王》のブーツが消えて素足になっており、その足の裏から伸びたブーツの分の殺気が僕の〈剛〉を包むように張り付いていた。
「戻りなさい」
僕を包んでいた殺気が急速に引き戻される。僕は凄まじい速度で《巨人女王》の足の裏に張りつかされた。
「アハーハッハッハッ!!!」
真姫さんはその足の裏に捕らわれた僕で地面を何度も何度も踏む。
「ぐふっ……」
抜け出したいが身体を振り回されて上手く殺気を操作できない上に、僕を包んでいる殺気にも〈硬〉が混ざっているのか現状で唯一発動できる《爆心》では破壊できない。
「あぁ~、いいこと考えちゃった」
真姫さんは戦いの中で少し離れた先ほどの少女がいた家を振り向いた。
「これであの子踏んじゃおうかな~?」




