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VS二ノ腕真姫1

 萬屋さんは空中に生成した《天踏》を踏んで、空中を駆け上がっていく。僕も後を追う。

 十三階の外まで到達すると、萬屋さんは窓を蹴破りながらその内側へと突入した。

「うわぁぁああああっ」

「……チッ、これだから嫌なのよ、弱小組織との取引は」

 中には追ってきたスーツの男の他にも、薄いブラウスにエナメルのタイトスカートと高いブーツを履き全身を黒系統の衣類でまとめた女性と、五人の取り巻きの男達がいた。

 女性と取り巻きの男たちは僕らが飛び込むと同時に〈剛〉を発動し、その瞳を朱色に変えている。

「逃げられんで。既にこの最上階は包囲されとる」

 同じく瞳を燃えるような朱色に染めている萬屋さんがそう宣告する。ちらりと窓の外を見るといつの間にか分厚い水で覆われていた。……サーファーの人の殺気術だろうか?

「……なにやってんのよ! さっさと殺しなさいッ!」

 女性が取り巻きの男たちに怒鳴る。しかし、五人の男たちは恐怖に固まっていて動けない。

「で、でも、こいつ多分あの【天矛】ですぜ……お、俺らじゃあ……」

「だからなんだってんのよ! 私が拾ってやった命だろッ! 今、私に返しなッ!」

「……イエス、マムッ!」

 覚悟を決めた男たちが〈剛〉の出力を上げて突貫してくる。入れ替わるように女性は背後へと下がった。そして力を溜めると、壁とその先の分厚い水の檻をも貫いて外へ飛び出す。

「…………」

 僕の目の前で四人の男を軽くあしらいながら、萬屋さんは僕に言った。男のうち一人は既に胸を貫かれて絶命している。

「突入した窓から出て追うんやな。それが今回のあんたの仕事や」

「え、でもツーマンセルは……」

「じゃーかぁしいのぅ。ウチが言ったことを守ると思ってるんか?」

 ……そうだ。言ってることとやってることがコロコロ変わる人だった。悪く言えば適当、よく言えば臨機応変。

「了解ですッ」

 僕は入ってきた窓から水を突き破って飛びだした。空中で方向を変えてビルの上に出る。そこには水にサーフボードで乗っているサーファーの人がいた。

「おっ、あんたが追うのか。あいつならあっちだぜ。男を魅せろよ」

「……押忍ッ!」

 視界の先にビルの間の路地に降りていく女性がいた。僕は気合を入れ直し《劫心掌・翔》の出力を上げる。

 路地の上に出ると、〈陰〉で気配を殺しながら駆けていく女性がいた。僕の殺気に気がついたのか振り返ると、〈陰〉を解除して〈剛〉の出力を戻し、凄まじい速度で神泉の路地を走破していく。

 しかし僕もそれに食らいついて行く。かなり取引場所のビルから離れた場所で女性が立ち止まった。周囲には低いビルやアパートが立ち並んでいる。駒場に近い場所まで来ていた。少し先には東京大学もある。

「振り切れないなら……殺す。あいつらの中にはめんどくさい〈術〉持ちも混じっている。あんたを殺して身を隠す時間くらいはあるはずよ」

「……それは困る」

 僕らは雲って薄暗い空の下、互いを見上げ、見下ろしながら睨み合う。しかし僕の目線は徐々に上がっていき、ついには見上げるほどになった。

「……マジで?」

 僕がいるのは地上から二十メートルほどの高さだ。女性がいるのはさらにそれより十メートルほど高い。

「〈拡〉〈操〉〈硬〉、《巨人女王》」

 殺気でかたどられた巨大な女性が僕の目の前には立っていた。裸にブーツのみを履いた、非常にエロティックな格好でもある。

 その《巨人女王》の胸の内側あたりに僕と目の合っている女性はいる。なので実際の《巨人女王》はもう少し大きい。三十五メートルほどだろう。

「調教してあげる♥」

 振り上げた《巨人女王》の手には、幾筋にも分かれた短い鞭のようなものが握られていた。振り下ろされたそれを僕は咄嗟にかわす。地面に叩きつけられると同時に路地の左右にあったビルの壁を砕いた。

「なっ、や、やめろッ」

「あんたが避けたのがいけないんだろ? ほらほらもっといくわよ♥」

 《巨人女王》が鞭を振るい、脚で蹴り上げ、拳を落とす。僕は《劫心》や《爆心》でなんとか受け止めていくが、その戦闘の余波だけでも周囲が破壊されていく。

 ふと僕の視界に、破壊されたアパートの中で、おもちゃを手に泣き叫んでいる少女が見えた。へたり込んで動けないらしい。

 それを見た瞬間、僕は全ての覚悟を決めた。思えば僕はまだ、しっかりと理性を残した殺気遣いを殺したことがない。まだどこか躊躇している部分があった。

「……殺す」

「……やってみなさいよ〈機関〉の犬がッ! 私の犬に躾けてやるッ! この【女巨人】の真姫がねェッ!」

「真姫さんか……、苗字は?」

「私に苗字を聞くなッ!」



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