拒絶する心
殺気堕ちは急に〈湖沼の月〉の泥沼の中から外に出され、不審げに辺りを見渡していた。しかし僕が術を解放した殺気を感じ取ったのか、紅の瞳の焦点を僕に合わせて吠えた。
「グギャギャギャギャァァアアッッッ!」
「……こわーい」
僕は冷や汗をかきながらも構えを取る。
しかし威勢良く吠えた殺気堕ちだったが、ニタリと笑って構えを解いた。
「……?」
殺気堕ちは続いて左手を僕へ向ける。同時に右手の指先を自身の頭へ向けた。
「……マジかっ!」
殺気堕ちが左手を握り込み、腕を引く。同時に右手から鋭い弾丸が殺気堕ちの側頭部へ向けて放たれた。
僕の視界が一瞬にして切り替わる。殺気堕ちと入れ替わった僕の側頭部が貫かれる……寸前に発動させた〈拒絶する心〉が、殺気の弾丸を吹き飛ばした。
同時に床材や天井の一部までもが僕を中心に弾け飛ぶ。既に殺気堕ちにめちゃめちゃに壊されたショッピングモールだ。後から修繕費を要求されるなんてことは流石にないだろう。
先ほどの僕の位置に移動した殺気堕ちは再び殺気弾を放とうと構えている。
「グガァッ!」
先ほどは防げなかった〈変〉×〈放〉の弾丸も、〈拒絶する心〉を混ぜ込んだ爆発《爆心》ならば、簡単に防げる。
僕と殺気堕ちの間の空間が弾け飛び、発射された殺気弾を阻む。その吹き飛んだ空間から殺気堕ちが飛び出してきた。巨大な手を形どった殺気が、腕の振りと共に僕を斬り裂かんと襲い掛かる。
「〈拒絶する心〉」
僕を中心に衝撃波がほとばしる。しかし殺気堕ちはそれに耐えきり、その場にとどまった。僕の背筋が寒くなる。
「やば」
先ほどよりも鋭さを増した爪が僕に襲い掛かった。なんとか防御に上げた左腕を爪が斬り飛ばした。
「痛ッ……!」
全速力で後方に飛び、距離を取る。追撃が来るかと思ったが殺気堕ちはその場から動いていない。よく見ると殺気堕ちの足が床材へ沈み込んでいた。
「水沼さんか……助かる!」
僕は殺気堕ちへ向けて腕を伸ばした。
「ごめんなさい……さようなら。〈拒絶する心〉×〈創〉×〈操〉、《爆心包み》」
火力を上げた《爆心》が殺気堕ちを包むように複数爆発する。
その中心地で全ての爆撃を受け、体のほとんどを吹き飛ばされた殺気堕ちは、〈剛〉をも解除し、その場に崩れ落ちた。
「ふー……」
僕も同様にため息をつきながら〈剛〉を解除する。目の前の地面が揺らめき、水沼さんもショッピングモールに出て来た。〈剛〉を解除し僕の左腕を見て口を押さえる。
「戦闘中も見ましたが、改めて見ると……」
「え? あ、痛タタッ痛ッ!!! ほんとにやばいって! 萬屋さ~んっ!」
萬屋さんに試験終了後のことを聞こうと呼びかけるが、反応はない。どこか近くにいるはずだけど……。
「とりあえず〈剛〉で止血をした方がいいかと……」
「あ、ああ、そっか」
殺気で全身を包む〈剛〉には身体能力を上げたり全身を守る効果に加えて、傷口を塞いで出血を最小限にする包帯のような効果や、ギプスのように骨折による戦闘への悪影響を低下させる効果もある。
僕は〈剛〉を発動し、もう一度周囲を伺うがやはり萬屋さんはいない。
「いないなぁ……とりあえず灰庭君の様子を……」
〈剛〉も解除してうずくまっている灰庭君に近づこうと足を一歩踏み出した、その時だった。