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池袋虐殺事件

「さて特訓開始からそろそろ一ヵ月が経つわけだが……B級全員に召集がかかった。殺気堕ちの大量出現だ」

 聞いている僕らB-13隊の面々に緊張が走る。元B-3隊の僕こと天羽沁、水沼観月さん、唯我桃さん、そしてB-1隊より縁下優視さん。

 七瀬桜君はB-3隊の隊室の壁際にある事務机に腰を下ろし、各々好きな場所にいる他の隊員に説明を続ける。

「場所は池袋。少なくとも十体の殺気堕ちが確認されている。こんなことはあり得るはずがない。突発的に成るのが殺気堕ちのはずだからな。人為的なものだろうと上層部も俺も考えている。そして今回はその殺気堕ちのほぼ全員が、異形化している」

「なんだそれ?」

 唯我さんが口をはさむ。僕自身も異形化なんて聞いたことがない。C級時代の講習用テキストにも載っていなかったはずだ。

「現象としては言った通りだ。腕が四本。肥大化した顎。後頭部に開いた瞳。随分切れそうな長い爪。そんなのが十体ほどいる」

「なんだそりゃ。そんなの疼白……、ってまさか?」

「ああ。人体をいじくれる〈術〉を持つ疼白修爾。あいつが関わっている可能性がある。そうなると背後に〈組織〉がいる可能性も高い。気張っていくぞッ!」

 Bー3隊の隊室に桜君の激励が響き渡り、全身を震わせる。その声からは〈組織〉へ向けた情熱がひしひしと伝わってきた。

 〈機関〉東京本部を出ると補助官さんの車が待機してくれていた。〈機関〉所有の車両は緊急時には消防車や救急車のような優先走行資格を与えられる。壮年男性の補助官さんがスピーカーで呼びかけるなか、僕らは一直線に池袋へ向かう。桜君達B-1組が乗る車両も後からついて来ていた。

 


 ☟☟☟☟☟



 大量の死体が転がる池袋東口に到着する。その場で殺された者、逃げ出そうとして死んだ者。彼ら、彼女らにも人生があって愛する人がいたのだと思うと胸が痛くなる。

「許せない……」

 どんな目的があろうと、どんな背景があろうと、他人の人生を踏みにじって赦されるはずがない。

「手分けして探すぞ。異形の殺気堕ちは通常より数段強い。油断するなよ」

 桜君はそう言った後、縁下さんを連れて僕らから離れていく。僕らBー3隊も反対側へ駆け出した。

 水沼さんに索敵をしてもらいながら僕らは駆ける。その横に転がっている死体の中に、異形化しているものはない。疼白本人は来ていないのかもしれない。

 あるいは既に自身の能力の把握は終えており、今回のことはその最終テスト……とか。

 水沼さんの索敵に殺気堕ちが引っ掛かった。生き残った一般人を追っていた六本腕の殺気堕ちの前に立ちふさがる。三人で協力しながら戦い、多少苦戦したとはいえ、それほど損害もなく倒す。

 特訓の成果もあり、B級昇格試験で通常の殺気堕ちと戦った時よりも、僕らは遥かに強くなっていた。しかし目の前の疼白たちに利用されて死んだ殺気堕ちを見ると、その喜びを噛み締める気にはなれない。

 その時、水沼さんの顔がこわばり、斜め上方を振り向いた。視線が向く先は最も近くのビル、その屋上だ。

「今、一瞬だけ殺気を感じ取りました。地涙村で感知したものと同じ、疼白修爾のものです」

 それを聞いた瞬間、人間の尊厳を踏みにじるような能力を躊躇わずに使う疼白への怒りと共に僕は飛び上がっていた。《劫心掌》を利用して後方へ爆風を放ち、その反動で空を翔け上がる。

 ビルよりも高く飛び上がると、屋上に三人の若い男女の姿が見えた。

「あーあ、見つかっちゃった。自分の手塩にかけた殺気堕ちが殺されたからって、動揺して〈陰〉が疎かになるなんて、未熟にもほどがあるよ」

「……すいません、ボス」

「僕が止めておくから……、早く逃げて……」

 呟くような声で一歩前に出たのは、少女のような体躯と白く長い髪を持った少年。歌舞伎町の動画で見た元〈機関〉隊員。

 玖凪シラヒの瞳が朱色に染まり、全身から電気を帯びた殺気が立ち昇る。

 

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