サウナ回2 - II
桜君による特訓が始まって二週間が経った。今は特訓終了後に僕一人でサウナに入っている。
「はぁー、桜君はすごいよなぁー」
七瀬桜君は僕達の訓練に口出しをしつつ、自分の訓練も忘れていなかった。しかも見るからに強くなっている。場合によっては僕達の殺気術を真似して、その要素を取り入れたりもしている。強くなることにてらいがない。
「頭もいいんだっけ……」
東京にある全国でも有名な私立大学に桜君は籍を置いている。なんでも理系科目を勉強する時間があったら東大にもいけたらしい。
「ふー……」
理不尽だよなぁ、と思いながら僕は息を吐く。汗が髪から滴り落ち、すねに落ちる。今日は僕一人なのでスペースを存分に使って胡坐をかいていた。
このサウナには水風呂はないので、冷たいシャワーで代用している。シャワーで身体の表面を冷やした後、シャワールームを挟んで反対側にある小部屋に置いてあるビーチチェアーで横になると、十分に「整う」ことができる。
「お? なんだ今日はお前だけか」
入ってきたのは桜君だった。相変わらずタオルも巻かないフルチンの桜君は僕の横に同じく胡坐をかいて座る。
「……ふぅー……」
しばらく沈黙が続いたあと、桜君は気持ちよさそうに息を吐く。そしてまた黙った。
だいぶ時間が経ったあと、桜君が口を開いた。
「……女どもがいる時は大体うるさいが、こういう静かな時間もいいものだ。そう思わないか?」
桜君は目を閉じて軽いストレッチをしていた。外のサウナでやったらマナー違反だが、ここは個室サウナみたいなものなので別に構わないだろう。
「……そうだね」
また沈黙が続く。五分も経ったかというころ、今度は僕から聞きたかったことを聞いた。
「その、玖凪シラヒってどういう人だったの? 全く知らなくて」
「……そうか、写真の類は全て処分されているのか。少し待ってろ」
そう言って桜君はサウナ室を出て行き、すぐに戻ってきた。手に桜君のスマホを持っている。
「えっ、大丈夫なの? 壊れるんじゃ……」
「〈与〉で保護してるから問題ない。それよりこの動画は見たことあるんじゃないか?」
渡してきたスマホに映っていたのはユーチューブショートの動画だった。縦長の動画が映しているのは、新宿の歌舞伎町、その中でも有名なゴジラの模型だ。破壊されたような巨大な穴が空いたビルの、地上二十メートルほどの高さに口を開いたゴジラの頭部が乗っている。
開かれた口の中に誰かいた。動画はその人物を追っているようで、画面が拡大される。
綺麗な白く長い髪を伸ばした少女のような人物だった。殺気を纏っているその人物は遠くのどこか一点を凝視すると、右腕を突き出す。その手に膨大な殺気が集まり、電流がバチバチと周囲に漏れ出す。直後その手から電流を纏った巨大なレーザーがどこか遠くへ向けて放たれた。
カメラがそのレーザーの行く先を追う。しかし人ごみに邪魔されてどこに着弾したのかは映っていなかった。
カメラが再び白髪の人物に戻る。殺気を使い果たしたようでへたり込んでいた。そこで動画は終わり、再び最初からになる。
「……見たことは、ある。〈機関〉が消しきれなかった動画だって……。もしかしてこの人が……」
「玖凪シラヒ。ちなみに男だ」
「え、嘘でしょっ?」
僕は再び動画の中の人物に目を落とす。どう見ても美少女にしか見えない。
「この〈雷滅砲〉の先で戦っていたのが俺だ。この援護射撃がなければ俺は死んでいた」
雷のレーザーを放っている小柄な男の子に見入っている僕の手からスマホを取り上げ、サウナ室の外に置いて戻って来る。そして再び僕の横に胡坐をかいて座った。
「ねぇ、もっと教えてよ。シラヒ君のこと。友達だったんでしょ?」
「……親友だった。生まれて初めてできた、な」
目を閉じた桜君はどことなく寂しそうだった。しかしゆっくりと目を開いた時、その瞳には煮えたぎるような怒りが湛えられていた。
「シラヒの能力については、特訓の最後の辺りで話す。敵はシラヒだけじゃない。シラヒとだけ戦えるようになっても意味がないからな」
桜君は怒りを押さえつけるように。より深く閉じ込めてじっくりと煮込むように、長く、長く息を吐いた。
僕は不味いことを聞いたかなと思いつつ、話を変える。
「そ、そういえば人数もっと増やせないの? 萬屋さんが手が空いた時には参加してくれるのはありがたいけど、他のA級の人とかも……」
「A級の連中は〈同盟〉の相手で忙しいからな。萬屋についてもあまりアテにならん。他のB級は雑魚の殺気堕ちやら殺気遣いやらを狩るのに忙しい」
結果としてほとんど僕達でやるしかないということだった。
ちょっと悩みましたがこれ以上主人公パーティを増やすと書ききれなくなるので追加戦力は萬屋だけにしました。




