サウナ回2- I
サウナ回1を10話~12話に追加したので良ければそっちもどうぞ。ニート時代の沁と水沼観月との出会いのエピソードとか書いてます。※下ネタあり
「マジか……」
桜君との試合を終え、縁下さんの回復を受けた後、僕達はまた三人でB-3隊室のサウナに入っていた。
〈組織〉を追う為の合同部隊、B-13隊という衝撃の構想を聞いた僕達だったが、その反応は様々だ。
「いいじゃねぇか。〈組織〉とは因縁があるし、ぶちのめしてやろうぜ」
そう強気な発言をする唯我桃さんだったが、その顔色は晴れない。
「隊長があの七瀬さんというのが気がかりですね……。それにあの紅龍遣いの海堂という男を相手にしないといけないと考えると……」
水沼観月さんも僕の隣で憂いている。確かに実際に相手をしてみた感じ、桜君でも海堂に勝てそうだとは思えない。
僕も不安しか感じていなかったが、なるべく明るく言った。
「ま、まぁすぐに始まるわけじゃないし、一カ月の間になんとかしようよ! 僕達の訓練を桜君が見てくれるらしいし、萬屋さんも手が空いてる時は来てくれるんでしょ」
B-13合同隊の結成とそのミッションを聞いた萬屋さんは参加したいと駄々をこねたそうだが、上層部に却下された上に次になにかしたら除隊も視野に入れて処罰すると脅されたらしい。A級ほど機密情報を握っている人物がなにか功績を残して引退する以外で除隊される場合は、危険分子を野に放たない為に殺害することもあると言われている。別の任務をすっぽかして地涙村に来た影響が思いのほか後を引いているらしい。
「……訓練か」
水沼さんを挟んで反対側にいる唯我さんがぼそりと呟く。桜君に手も足も出ず、泣いていたあの時からずっとこの調子だ。
「……大丈夫、もっと強くなれるよ。唯我さんはセンスいいしさ!」
センス。桜君の戦いでその重要性が身に染みて分かった。僕には近接戦闘に必要なセンスがまるでない。格闘技経験でもあればまだ違ったんだろうが、不登校からのニートだった僕にそんなものがあるはずもない。
「だがそれも上の下だっつう話だ。バールが当たらなきゃどうしようもねぇしな……」
「唯我さんの適性はなんですか?」
水沼さんが踏み込んで聞く。適正はわりと重要な情報だ。信頼している人以外には明かすべきではない。
とはいえ流石にその程度の信頼関係は築けているらしく、唯我さんは躊躇わずに教えてくれた。
「〈与〉のピュアだ。……だからマジでどうしようもねぇんだよな。デュオやトライが羨ましいぜ」
「ピュアの可能性を信じられんのか? 馬鹿め」
「そ、そうだよ。なにか手はあるはずだよ!」
「……天羽さん、唯我さんを慰めるのにやっきになるのはいいんですが、違和感に気がつきましょう」
ん?
視線をサウナの入り口に向ける。そこにはバァ~ンという効果音を背景にして(幻覚)腰に素っ裸のムキムキな男が立っていた。長めの髪が頬を隠している。その髪の中には幾筋かの金色のメッシュが……。
「さ、桜君っ? なんでB-3の隊室にっ!?」
「Bー13隊になったと言っただろう。隊のものは共有だ」
そう言って僕の身体を押しのけ、僕と壁の間に無理に入って来る。本来三人用のサウナ室だ。僕の身体の右半分が隣の水沼さんの柔らかい肌に押し付けられる。
「うわっちょっちょっ」
「…………ふほっ」
水沼さんが謎に息を吐く。思わず振り向くと反対側の唯我さんの方に顔を向けて、頬を染めていた。
そんな僕らにお構いなく桜君はフルチンで自分の話を続ける。
「テメーら凡人共は自分の能力を生かしきれねぇ。伸びしろがあるのにそれに気がつかねぇ。だから教えてやることにした。……そうしたらあいつらも死ななかったかもしれねぇしな」
桜君は一瞬思いにふけるような様子を見せる。東京ドーム決戦の時の話だろうか。
「テメーら全員伸びしろはある。特にデカいのは天羽と唯我だ。……正直水沼の〈術〉は特殊すぎてよくわからん。自分でなんとかしろ」
「なんですかそれは……」
「天羽は言わずもがな《劫心》の強化だな。そして唯我には全く新しい殺気術を覚えてもらうことになる」
「……ハッ」
唯我さんは毒づく。
「私の適性は〈与〉だぜ? 〈与〉に何が出来るって言うんだ?」
「それはテメーが気づいてないだけだ。運動神経はさておき、頭の方は大したことねーみたいだな」
「あァ?」
「やるか?」
二人は立ち上がって僕の前で睨み合う。相変わらず唯我さんのタオルの巻き方は雑なようで、立ち上がった時に脱げ落ちていた。ちょうど僕の目の高さくらいに二人の腰がきて、僕は慌てて目を逸らす。
「まったく……今度は私がタオルの巻き方教えましょうか?」
水沼さんがずり落ちた唯我さんのタオルを拾い、唯我さんの全身に巻き付けて座らせる。
「フン……とにかく明日からお前らには死ぬつもりで特訓をしてもらう。縁下がいるから回復は心配するな」
僕と壁の間にずりずりと厚い筋肉のついた巨体をねじ込む。僕の身体はニート時代よりは大分マシになっているとはいえ、痩せ気味で筋肉による凹凸もそんなにない。ちょっと羨ましくなる。
「なんだ? そんなジロジロ見て。お前、ゲイだったのか?」
「えっ、ち、ちがっ」
「まあそういうのにも理解はあるが俺には彼女がいるからな……」
「えっ……?」
「そんなに驚くなんて本当にそうなんですか? それは……その、少し困ります……」
「あっ、今のは違くて……、彼女いるのが意外過ぎるというか……」
「可愛いし、いい女だぜ? お前らとは比べ物にならんな」
唯我さんが鼻で笑う。桜君に苛ついているようだが、少しは元気になったみたいでよかった。
「ハッ、こっちから願い下げだぜ。お前と付き合うくらいなら沁の方がまだマシだ」
その言葉に一番動揺したのはなぜか僕ではなく水沼さんだった。
「えっ、あの、唯我さん……?」
「わーってるよ。興味ないから安心しろ」
「ふぅ……」
なんの話をしているんだろうか?




