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VS七瀬桜5

「《流々泥葬》。……限界が来る前にギブアップすることをお勧めしておきます」

 下降水流。人間は息が吸えなくなっただけで、簡単に死ぬ。それは殺気遣いでも変わらない。

 泥の底へと誘う下向きの流れが桜君を襲っている。しかし桜君は押し流されるようなことはなく、その場にとどまっていた。

「〈操〉でしょうか? であれば〈放〉〈硬〉〈操〉の三適性……いえ」

 視界の先、桜君の右手に莫大な殺気が集まっていく。さらに膨大な量になった殺気は圧縮されてその大きさを縮めていく。僕も水沼さんもこの殺気術には見覚えがあった。

「《神貫手》……? 嘘、あれには〈縮〉が必要不可欠なはず。〈操〉で代用している……? でもこの圧縮度は……っ」

 どういう理屈か強烈な下降水流の中でも姿勢を失わない桜君が拳を引く。そして泳ぐのではなく、泥を蹴って、水沼さんへ突進してきた。《劫心掌》による空中移動をした僕ならわかる。あれはおそらく〈放〉を応用することで一蹴り毎に足から殺気を放出し、泥の中で推進力を得ている。

「まずはあれを止めます……《泥の棺》」

 水沼さんの声に合わせて桜君の周囲の泥が集まっていく。圧倒的な密度となった泥は桜君をその場に拘束した。

「くっ、押さえつけるので精一杯……ですが、これで、いい」

 そう、ここは水沼さん以外呼吸のできない泥の中。時間は水沼さんの味方だ。

 それにいくら《神貫手》とはいえど、接近させなければ怖くない。飛んでくることなどないのだから。

 …………?

「ばっ、ばぶびッッッ!!!」

 気がついた僕は思わず叫ぼうとしてしまった。しかし空気を吐き出すだけで声にはならない。

 それに、叫ぶ必要はなかった。水沼さんもそれをすぐに目撃することになったのだから。

 桜君は一時的にだろうか、全身の〈剛〉の出力を大幅に上げた。それによって《泥の棺》に対抗する身体能力を得た桜君は、引いていた《神貫手》を纏う右手を。

 全身のひねりに乗せて全力で突き出した。

 萬屋さんですら不可能だった《神貫手》の投擲。圧倒的な貫通力を持った神殺しの槍が駆け抜ける。

「《泥の……》」

 水沼さんは殺気術を発動しきることが出来なかった。高速の遠隔打撃《空撃》の特徴を引き継いでいる高速の《神貫手》の投擲は反応する間もなく、彼我の距離を埋める。

 しかし水沼さんは流石だった。桜君の動きから察知したのか、部分的にだが殺気術を発動することができた。

 それによって戦闘不能が、ギリギリ戦闘続行可能、になった。

「右腕……とそれに肺の一部も、ですか」

 《神貫手》の投擲は水沼さんの右腕の付け根を貫いていた。右腕と右肩の先がごっそりと失われ、胸の横側も幾分か削られていた。

「ぼぶっ、ばべばっ!」

 余りの惨状を見た僕は戦闘を終わらせるために二人の間に割り込もうとした。泥の中を泳ぎ、二人に近づこうとする。しかし泥の流れによって押し戻された。殺気がほとんど残っていない僕はその流れに抗えない。

「まだ、です。ここから、勝ちます」

 水沼さんは蒼白な顔で僕を振り返り、苦し気に微笑む。


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