表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/74

水沼観月


 暗く、視界が黒で塗りつぶされているような空間。しかし、見える。殺気堕ちした男も見えているし、その向こう側にいる水沼さんも見えている。

 呼吸はできない。水沼さん以外は。だが、僕は沈み込む寸前になるべく多く息を吸っている。一分くらいはこの中でも活動できる。

「がほっっ!」

 殺気堕ちはそうもいかない。予想外のことに肺の中に残っていた酸素すら吐いてしまった。とはいえ脳のリミッターが外れて身体能力が段違いに上がっている殺気堕ちのことだ。おそらく数分は無呼吸でも戦闘できるだろう。

 堕ちた男は僕と水沼を交互に見やる。そして同時に攻撃することに決めたようで、再び両腕を交差させた。

「そうはいきません。〈湖沼の月〉×〈縮〉、《泥の棺》」

 しかし水沼さんが腕を男へと真っ直ぐ伸ばし、握りつぶすようにその手を強く握った。それに合わせて男の周囲の泥濘が一斉に男へと集まり出す。密度を高めた沼の泥は男を圧殺せんとその身体への加重を増していく。

「グギギィ……ガァッッッ!」

 殺気堕ちは力を振り絞り、僕に向けた手のひらを閉じて引き寄せるような仕草をする。

「ッ! 水沼さんストッ……」

 叫びも間に合わず、僕は水沼さんが作った棺桶の中へと引きずり込まれる。だが水沼さんも一度男の〈術〉を見ているので、即座に加圧を止めた。僕はおかげで全身の骨にひびが入るくらいで済んだ。

「グゥィァアッッッ!」

 僕と入れ替わった殺気堕ちは今度こそと言わんばかりに両腕を振り、殺気の散弾を発射する。僕は再び爆発で処理しようとするが、今回の散弾は一味違った。

 殺気の散弾は水沼さんの〈湖沼の月〉で作られた泥も、僕が発動した爆発をも斬り裂き、僕らへと一瞬で到達した。慌てて強度を上げた〈剛〉を貫き、僕らの体に風穴を開ける。

「ぐっふぅぅぅうっっっ」

 貫通力が段違いに上がっている。おそらくーー

「〈放〉と〈変〉の統合殺気術ですね……。あの殺気堕ちの〈変〉の性質は斬撃なのでしょう」

 水沼さんは僕の体が貫かれたのを見て、泥の密度を高めたらしく、無傷だった。

「……そろそろ、天羽さんも〈術〉を使ったらどうです?」

「……ぼぶばべ」

 僕の〈術〉は確実に建物に被害が出るので使うのを躊躇っていたけど、もうそうも言ってられない。〈湖沼の月〉の中で使うのも水沼さんの負担になるからやめていたが……。

 それより流石にそろそろ息がきつい。まだ一分も経ってはいないはずだが、体を貫かれた時にだいぶ息を吐いてしまった。

 手で僕を水面へ戻すようにサインを出すと、僕の周囲の泥が動き出し僕を水面へと押し上げた。同時に殺気堕ちもショッピングモールへと出現する。

「ふぅー、水沼さんは……上がってこないか」

 僕がやりやすいように、ということだろう。確かにそちらの方が、巻き込まずに済むから僕としては助かる。〈湖沼の月〉の中からサポートしてくれたらありがたい。

「術解放、〈拒絶する心〉……一対一でやるの? 本当に?」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ