VS七瀬桜2
《劫心包み》を回避した桜君はそのまま巨体に見合わぬ俊足で、僕に接近する。跳躍。全身を大きく捻った体勢から繰り出される右回し蹴り。僕は再び両腕を殺気でかため、その一撃を受ける。
「がっはぁッ」
地面に叩きつけられ、そのまま滑っていく。十五メートルほど滑ったところで地中の岩にぶつかって宙へ打ち上げられ、そのまま凹型訓練場の外周の崖に叩きつけられた。
霞む視界の先では、再び桜君が拳を引いている。
「させないっ!」
桜君の眼前に僕の殺気を出現させる。爆発の核となる光球だ。
しかし桜君は《空撃》を放たなかった。ニヤリと笑い、身を翻す。《劫心》は読まれていた。
「桜君は強いよ。本当に」
だからーー。
「君が読んでくると、読んだッ! 出力全開、《爆心・轟》ッッッ!!!」
殺気を限界まで込めるための僅かなタイムラグのあと、半径十メートルにも達する巨大な爆発が起こる。それは光球から僅か数メートルにいた桜君を易々と飲み込んだ。
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爆発の暴風が収まった後、僕は叩きつけられた崖をずり落ち、その下にへたり込んだ。殺気は全て使い切った。これで戦闘不能になっていなかったら、もう打つ手がない。
舞い上がった土埃の中から殺気の拳が飛来し、僕の真横に小さく、しかし深い穴を穿つ。
「ははっ……」
わざと外したのはわかっていた。土埃の中から桜君がゆっくりと姿を現す。
服は至る所で破れ、擦り傷のような跡が身体中にあったが、大したダメージには見えない。
「終わりでいいな?」
「そうだね。君の勝ちだよ……。どうやって耐えたの?」
「〈硬〉で全身を固めた。僅かに遅れて傷を負ったがな」
「そっか……適性は〈放〉と〈硬〉?」
「いや。それをお前に教える義理は今んとこねぇな」
適性。殺気遣いはそれぞれ〈剛〉〈陰〉、それから基本的な殺気操作以外の殺気術に関しては、一つから三つの適性を持っている。適正のない殺気術は使用が著しく困難で、ほとんどまともに使えない。
僕の適性は〈創〉と〈操〉。水沼さんは〈拡〉と〈縮〉。唯我さんは……。
そういえばなんだろう? 〈与〉は確実にあると思うけど……。
「次は私の番だぜッ!!! 連戦がキツイとか言わねェだろうなッッ!!!」
咆哮が響き渡る。トレードマークでもあるバールを担いだ唯我さんが僕の頭上の崖上から跳び越し、爆発で変形した凹型訓練場の底に着地した。バールを身体の周囲でぐるぐると回した後、ビッと桜君に向ける。
「……ハッ、勿論だぜ。あの雑魚にはロクに削られてねぇからなァ」




