表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/74

《血穿》

 海堂は仰け反りながら崩れ落ち、膝を突いた。萬屋さんはそんな海堂を見下ろしながら《神貫手》を構え直す。

「デべ……」

「舌を噛み切ることによる死因はショックでも痛みでもなく、舌が引っ込んで喉を塞ぐことによる窒息死や。致死率は百パーセントやない。トドメを刺させてもらうで……? なんやッ?!」

 萬屋さんは叫びながら、自分の右脚を見る。そこには自身の足に突き刺さる《血穿》があった。ボコボコボコと身体の内から爆ぜるように変形していく。

 萬屋さんはおそらくこの能力を知らない。しかしとっさの判断で自分の右脚を斬り飛ばした。

「く……」

 《血穿》は海堂にも突き刺さっていた。苦しんでいた海堂がその呻き声を止め、ゆっくりと立ち上がる。

「よくやったな。疼白」

 そう、はっきりと発音した。新たに生えた舌で。

 僕は二人から数百メートル離れた山の中で、吐き捨てた。

「疼白ッ?! 離れたんじゃなかったのかよッ?!」

「海堂が劣勢と見るや、リスクを承知で〈陰〉で近づいたんだろうな」

「私達も行きましょう」

「そうしろ。私はここに置いていけ……足手纏いだ」

「気をしっかり保っててね……唯我さん」

 僕と水沼さんが〈剛〉の出力を戦闘用に戻そうとしたその時だった。

「来るなッッッ!!!」

 轟いた声の主は萬屋さんだった。僕達はまだ〈陰〉すら解いていない。僕達の行動を見越した一喝により、僕らは〈陰〉を維持したまま、その場で立ち竦んだ。

「機動力に問題はないッ! 逆にお前らを避けながら動く方が負担や! だから来るんやないッ!」

 そう言われても……と僕は水沼さんと視線を交わす。

 水沼さんは少し考えた後、再びスッとしゃがみ込んだ。

「もう少しだけ様子を見ましょう」

 僕も顔を歪ませながら、しゃがみ込んだ。自分の力不足を恨む。

「なんや。こんな近くまで来たんか。リーゼントに気を取られて気がつかなかったわー。死にたいんか?」

 萬屋さんは気丈に振る舞ってはいたが、冷や汗や歪んだ口元を隠しきれていなかった。

 切断された太ももは強固な〈剛〉に覆われており、血が一滴たりとも流れ出ていない。しかし〈剛〉の出力は明らかに落ちていた。

 それでも、おそらく僕ら三人を瞬殺できるほどの力は残っている。それはつまり疼白をも瞬殺できるということだ。

 しかし萬屋さんは動かない。目の前のリーゼント男……海堂に隙を晒せばどうなるかわからないからだ。

「……これでようやく俺らが微有利ってところか。大した女だぜ」

 海堂はポケットから煙草と高価そうなライターを取り出し、火をつけた。萬屋さんはピクと反応しかけたものの、隙と言えるほど隙はなかった。 

「さて……わかってると思うが、疼白を殺そうとすればその隙にお前を殺す。俺を殺そうとすれば俺と疼白でお前を殺す」

「はッ……二人とも無事に帰れると思ってるんか?」

「無理だろうな。俺はともあれ、疼白は死ぬだろう。だがお前も死ぬ。だから交渉の続きだ。ここで手打ちにしないか?」

「……ハァ? アタシの友達を殺しておいて随分と都合のいい頭をしてるんやな。お前を殺して疼白とやらも殺す。アタシが死んでもや」

「仇討ちか……。そういうことなら仕方ないな。そういう感情はむしろ〈組織〉の俺達の方が持っているような感情だと思っていたんだがな」

 海堂が目を細める。煙草を落とし、火を踏み消した。

「やるかーー」

「ま、待って! ください!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ