VS 殺気堕ち
姿を隠して僕達を追うと言う萬屋さんを後に残し、僕達C-3班はショッピングモールの中へ踏み込む。入ったばかりのところには死体はないが、すでに死臭がひどい。
「……ひどい匂いだね」
僕は二人にそう言ってみるが、すげなく無視される。
「……敵はどこにいるかわからないんスよ。無駄口叩いてないで、ちゃんと警戒してください」
灰庭君からは明らかに侮蔑するような態度で、そんな手厳しい意見を言われる始末だ。
まあそれに関しては僕の長年のフリーター生活で染み込んだ低姿勢っぷりが大いに影響している。
「はは、そうだね……」
僕は空笑いでそう言うと辺りに視線を向ける。やはりここには殺気の残気もないし、不審な人影も見えない。もっと奥に入らないと……。
そう言おうとした矢先、殺気を拡大する<拡>によって周囲一帯の探知をしていた水沼さんが大声を出した。
「警戒! 前方から急速に接近する殺気反応があります!」
直後、全員が叫ぶ。
「「「<剛〉っ」」」
体から殺気が吹き出し、全身を覆う。瞳が充血し、朱く染まる。
三人が戦闘態勢に移行した瞬間、目の前の和食屋の壁が奥からぶち破られ、ショーウィンドウを砕きながら殺気堕ちが現れた。瞳を濃い紅に染め、肌を浅黒く変色させ、全身に莫大な殺気の〈剛〉を纏った男性だ。
ショッピングモールのどこかの店の社員だったのかもしれない。無残に引き千切られたスーツの残骸を纏い、髪を振り乱し、唾液を撒き散らしながら僕らに襲い掛かる。
「コロス、コロスゥゥゥゥウウウウッッッ!!!」
殺鬼堕ちは両腕を交差させ、空を掻き裂くように広げる。同時にその手の軌道上から無数の殺気の弾丸が散弾銃のように放たれた。
「ウヒィィィイッ!」
僕は右手を前に出し、自分へ飛んできた殺気弾を小規模な連続爆発で撃ち落としていく。ポップンミュージックで鍛えた動体視力を舐めるんじゃねぇぇぇええ!!!
水沼さんは自身の足元の床材を沼のように軟化させ、その場に沈んでいった。沼の上を無数の殺気弾が通過していく。
そして灰庭君は、
「〈硬〉ッ!」
その場で全身の殺気を硬質化させ、殺気弾をはじく。全ての弾丸を凌ぎきった後、灰庭君は頬を歪め、侮るように言った。
「ふっ、あんたも〈放〉の使い手か。だがーー」
灰庭君は体の前で手の平を上下にハンドボール大ほどの距離を開けて突き出す。そしてその間に殺気が集約されていき、球を形作った。更にその球は先ほど灰庭君を守った殺気同様、硬質化されていく。
「〈放〉×〈硬〉。格の違いを教えてやるよ……、くらえッ《金剛弾》ッッッ!!!」
全身を捻るようにして胸元に一度引いた腕を突き出し、硬質化された巨大な殺気の弾丸を放つ。弾丸は一瞬で殺鬼堕ちした男へ到達した。灰庭君は既に勝利の笑みを浮かべている。
が。
殺鬼堕ちした男は灰庭君へと向かって手を伸ばす。そして空を掴むように手を握ると、ぐい、と何かを引っ張った。
「ッッッ!!!」
直後、灰庭君がいた場所に、つまり僕のほんの数メートル先に、殺鬼堕ちが、いた。
「なっ!」
そして直前まで男がいた位置には灰庭君がいた。当然灰庭君の目の前には、自分が放った《金剛弾》が迫っている。
「こ、〈硬--」
灰庭君が言い終わる前に、重い金属同士がぶつかったような鈍い衝突音が響く。
どうなったかは気になるが、僕もそれどころではない。殺鬼堕ちは腕部分から伸びた、殺気で形どられた巨大な鉤爪で僕を斬り裂こうとする。
「うっくッ」
変な声を出しながら僕は後ろに仰け反り、その破壊の爪をかわす。
連撃を背後に下がることでかわし、隙を見て男の顔面に大きめの爆発を撃ち込むが、効いた様子もなく口を細く伸ばして笑みを浮かべるだけだった。
「クッソ、リミッターが外れた殺気堕ちはこんなに硬いのかよっ」
僕は一瞬とはいえ殺気堕ちを止められたタイミングを逃さず、畳みかけるように連続爆破で殺気堕ちの視界を塞ぐ。
僅かでも効いているはずだ、と自分に言い聞かせながら。
「灰庭君は……」
殺気堕ちの男の動きを止めながら、灰庭君の様子をちらりとうかがう。
「が……ふ……」
どうやら〈硬〉は間に合わなかったようで、和食屋の無事だった柱まで吹き飛ばされた灰庭君。胸を抑えて血を吐きながら、柱に背を預けてへたり込んでいる。
「なら……」
もう一人の班員に僕は思考を向ける。直後、僕と殺気堕ちの足元が沼のように柔らかくなり、二人を同時に飲み込んだ。