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萬屋鈴音

第11部分『村の中へ』の〈癒〉に関する話のあとに説明を追加しました。追加した文章は以下の通りです。

『〈癒〉は殺気の習得条件である『果てなき殺意』の対象を心から赦した時に、〈術〉を失う代わりに手にする殺気術である。その習得条件から〈癒〉の使い手は稀であり、比較的善人であることが多い。』

「……ッ?」

 結合殺気術【重き愛に抱かれて】には爆発する要素はない。爆散したのには別の要素があった。

 突如現れた巨大な紅龍が、その人間一人より大きな顎で【重き愛に抱かれて】を噛み砕いたのだった。

「なかなか悪くなかったぜ。合格だ」

 リーゼント頭が廃屋から背を離し、ゆっくりと近づいてきた。その身体からは凄まじい密度、量の殺気が立ち昇っている。

「……か、海堂さん、なん……で」

 紅龍が口を開ける。その中には《骨鎧》は砕かれたものの、五体満足で立っている疼白がいた。

 海堂は歩きながら疼白に言う。

「お前の〈術〉は説明を聞いた時から有用だと思っていた。正直この戦闘の結果がどうあれ、お前の〈組織〉入りは認められる予定だった。だが全力の戦闘力も見ておきたいからな。ちょっとした嘘をついた」

「そ、それじゃあーー」

「ああ、あとはこいつら全員殺して、帰るだけだ」

 その暴虐さを感じさせる殺気が僕らへ向かう。紅龍の感情を感じさせない瞳が僕らを映す。僕らが死を悟った、その時ーー。

「なにをさらしてくれとんじゃ、ワレェァァアッッッ!!!」

 天から萬屋さんが、降ってきた。

 唐突に出現した強大な殺気に僕ら三人と疼白は驚いた表情で萬屋さんを見上げる。萬屋さんは憤怒の形相で膨大な殺気を拳に宿すと、落ちて来る勢いのまま、海堂の頭上へと凄まじい一撃を放った。

 しかし海堂は薄ら笑いを浮かべながら、片腕で受ける。その腕は巨大な紅の鱗のような殺気に覆われていた。

 至近距離で萬屋さんと海堂の視線が交錯する。萬屋さんから放たれる強烈な殺意を、海堂は涼しい顔で受け流していた。

 萬屋さんはそのまま着地すると、凄まじい速度で水沼さんと唯我さんを捕まえて僕の方に放り投げた。僕が彼女らを受け止めるよりも速く、疼白に致死的な威力の拳を放とうとする。

 しかしその一撃は、再び顎を閉じた紅龍によって弾かれた。拳が当たった箇所には、再び紅の鱗が出現していた。

「ちっ、硬いな……」

 萬屋さんは後方に大きく飛び下がり、僕らの前に着地する。そして海堂を睨みつけたまま、僕らへ早口で指示を出した。

「下がれや。森の中に隠れて〈陰〉で気配を消しておくんやな」 

「ッ! 僕はまだ……」

「お前もだ、疼白」

 海堂の言葉と同時に紅龍の顎が開かれ、持ち上がった顔から疼白が吐き出される。

「なっ、あの男達の相手ぐらいなら……」

「邪魔だ」

 海堂の殺気の出力がさらに上がる。僕らに向けられた殺気ですら、本気ではなかったのか。萬屋さんは振り返らずに続ける。

「あのリーゼントの言う通りや。あんたらがいたら全力でやれん。桃ちゃんはしんどくても〈剛〉を維持しておけや。別の補助官が向かっとる。最低限それまではな」

「……すいません、僕達のために」

「あんたらの無事は正直どうでもいいんや」

 えぇー? そんな疑問の呻きがいつの間にか僕の口から漏れていた。

「だけど翔子ちゃんは大事な友達やった。歳は離れてたけどな。さっきも別の任務の直前で無駄電をかけてたんや」

「それで任務を放り出してこっちに来たのか? 責任感のない奴だな」

 海堂が薄ら笑いを浮かべながら、煽るように言葉を挟んで来る。

「ほざけや。あんたの確認不足のせいであんたはーー」

 萬屋さんの殺気が冷たく、暗いものに変わっていく。

「死ぬことになる」

「やってみろ」

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