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VS疼白修爾3

 腹部が吹き飛び、胸から上だけになった疼白が、残った右手で唯我さんを掴んだ。そのまま体を寄せ、右腕を唯我の背後に回す。

「なッ、なんでテメェ、死にやがらねェッ」

「私の〈術〉は〈偏身の理〉。まあ殺気を通じて人体の操作をする〈術〉だと思っていただければ」

 ズズズ、と倒れた下半身が起き上がり、腹部が修復されて上半身と繋がった。左腕も治り、さらにきつく唯我さんを抱きしめる。

「ちっ、きめぇんだよッ! どけやッ!」

 唯我さんは左拳で疼白の胸部に《重ナックル》を放つ。それは疼白の右胸を破壊して大穴を空けるが、すぐに周囲から肉が伸びて穴を埋めた。

「……相手の殺気越しには〈偏身の理〉は発動できませんか。となるとこう、ですかね」

 右肩の血の翼がばさりと、クジャクの尾羽のように開く。そしてその全ての先端から《血穿》が発射された。急激に角度を変え、唯我さんを狙う。

「ッ! 唯我さん、耐えてッ!」

 僕は唯我さんへ向けて呼びかけながら、唯我さんを巻き込みつつ、複数発動した《爆心》で《血穿》の迎撃する。しかし地を這うように放たれていた一本の《血穿》が唯我さんの左足の足首に、大きく迂回するように放たれていたもう一本が右腕の前腕に突き刺さった。

「痛っ……」

「終わりですね」

 刺さった箇所から、肉体がぼこぼこと巨大な泡が内側から浮き立つように変形していく。変形は脚を駆け上がり、膝を越え、胴体に達しかけた。右腕も同様に変形していく。

「……ふっ」

 次の瞬間、唯我さんの左脚と右腕が、それぞれの付け根から、ずるりと抜け落ちた。強い重力に引かれたように地面に落ちたそれらは、ぐしゃりと原形をとどめないほどに押しつぶされる。片足で疼白の体も使ってバランスを保ちながら、唯我さんは薄く笑った。その声はしかし、どことなく震えている。

「左脚と右腕に肉体の限界を超える重さを加えた」

「くっ……だがだいぶ弱ったようだなッ! あとはこの《骨針》で貫けばいいだけのことッ!」

 修復された左手の指先が割れ、内側から鋭い骨の針が伸び出てくる。《骨剣》よりも短く細い分、相当の密度になっているようだった。

 左腕が唯我さんの背に向けて振るわれる。唯我さんの〈剛〉は左脚と右腕を失ったことでかなり弱っており、至近距離で《爆心》を使えば、それが致命傷になりかねない。

「〈湖沼の月〉」

 どこからか聞こえた静かな声とともに泥のようになって盛り上がった地面が、その左腕に巻き付いて止めた。

「またこれか……だが、意味がないッ」

 左腕が、肘の先から伸びた。《骨針》は推進力を取り戻し、唯我さんの背に辿り着こうとする。

「〈拡〉」

 しかし〈湖沼の月〉の泥もその左腕を追って広がっていく。その速度は左腕が伸びる速度を上回り、左腕全体を泥が包み込んだ。 

《骨針》は唯我さんの背中を目の前にして、間に這入って来た泥によって止められる。

 疼白の背後から、ゆっくりと、泥に押し上げられるようにして水沼さんが現れる。

「《泥の棺》」

 疼白の左右から盛り上がった泥が疼白を飲み込まんとする。

「ぐっ、《骨卵》……は間に合わない、《骨鎧》ッ!」

 疼白は唯我さんを突き離した。直後、疼白の全身から骨が浮き出る。それは肉体を覆い尽くし、疼白は白骨の異形と化した。

 泥は疼白を飲み込み、〈縮〉の効果で疼白を押し潰そうとする。

「ッ、耐えられているッ」

 僕は疼白の様子を見て唇を噛んだ。《骨鎧》は《泥の棺》の圧力に耐えていた。疼白が叫ぶ。

「フッ、補助には向いているんだろうが、威力はお粗末だなァ!」

「……私の〈与〉は他人の殺気を纏うものには、自身の殺気を付与できない」

 そう、呟いたのは、疼白に突き飛ばされて倒されたあと、左腕と右足一本で体を起こし、近づいてきた唯我さんだった。

「だがその殺気の主が付与を許している場合は、相性次第だがそれが可能だ」

 唯我さんは右脚一本で立ち、収縮を続けている《泥の棺》、その外側に触れた。

「私と観月の相性は最高だ。そして泥の元となっている土に、私は自身の殺気を付与する。そしてーー」

「なッ、やめろッッッ、やめろォォォオオオオオッッッ!!!!」

 訓練場で試した際、泥の中のものの重さは泥に影響しにくいが、泥自体に重さを付与することは、可能だった。

「《泥の棺》×〈最も重きは愛なりて〉、結合殺気術【重き愛に抱かれて】」

 限界まで加重された泥が凝集、次いで爆散した。


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