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村の中へ

 

 村の外れまで滑り降りた僕は漂い始めている腐臭に顔を顰めた。直後に降りて来た水沼さんも僅かに不快そうな顔をする。

「おい、見ろよ、これ」

 先に降りていた唯我さんが傍に転がっていた死体の一つにバールを向ける。近づいて視線をやると、胸に大穴が空き、腕が千切り取られ、鋭利な何かで腰から下を斬り落とされた高齢の男性だった。

「惨いね……。鋭利なもので斬られている所を見ると斬撃系の〈変〉か〈術〉持ちかな?」

「かもな。次はこっちだ」

 唯我さんは別の死体にバールを向ける。腕の袖が千切り取られ、服の腹部分に大穴が空いた、中年の男性だった。服は損傷しているものの、体には見たところ外傷がない。

「これは……?」

「隣に落ちてるものをよく見ろ」

 そう言われて僕は傍にあったものに目を転じる。それは肩から千切り取られた腕だった。

「これが何か……あ、あぁっ?」

「……一筋縄ではいかなそうですね」

 その腕が纏っていた服の袖は、中年男性の死体と同じものだった。つまりこの男性は恐らく腕をもぎ取られた後に新たに腕を生やされたのだった。

「腹もそうだろうな」

「でもなぜ、わざわざ?」

「知るかよ。能力の実験とかそんなところじゃねーか?」

「……もしかして〈癒〉の使い手とか?」

「そうだったらむしろ楽だけどな。〈術〉がないわけだし。こんな惨殺をしでかす奴が他人を癒すほどの高度な〈癒〉を使えるなんて思えねーけど」

 〈癒〉は殺気の習得条件である『果てなき殺意』の対象を心から赦した時に、〈術〉を失う代わりに手にする殺気術である。その習得条件から〈癒〉の使い手は稀であり、比較的善人であることが多い。

「別の何かってことか……」

「まぁ間違いなく〈術〉関連だろ。さっさと探索の続きするぞ」

 僕らは中年男性の死体から離れて歩き出す。水沼さんは〈拡〉を維持しながら歩いている。僕もいつでも〈剛〉を発動できるように構えながら、周囲を警戒していた。

 村の中央部分へ向かうほど奇妙な死体が増えていた。顔の一部が歪んでいたり、両腕の長さが左右で違っていたり、腰が片側へ大きく曲がっていたり。そして遂にそういった一線さえ超える死体が現れた。

「これって……」

「ああ、エグいな」

 死体は若い女性のものだったが、その女性には腕が三本生えていた。

「〈術〉で確定だな。こんなことは〈癒〉じゃあできねー」

 それからは異形の死体が増えていく。部位の数が増えているものに加え、腰から脚の代わりに腕が生えていたり、腹に口がついていたりするものもある。明らかに生命に対する冒涜としか思えないような所業だった。

 僕は余りの惨さに呻きながら口を押さえる。来る途中に車の中で食べた半額おにぎりが逆流してきそうだった。

「おい、しっかりしろ。大人の男だろテメー。その股の間についてるのはなんだ? いらないなら潰してやろうか?」

 先頭を歩いていた唯我さんが振り返って毒舌を吐く。僕はバールで潰されるのを想像してしまい、恐怖で縮み上がるのを感じた。喉までせり上がってきたものをなんとか飲み込む。

 そのとき水沼さんが告げた。

「二人とも申し訳ありませんが、誰かいました。二人、近づいてきます」


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