天羽沁
翌日、土曜日。
僕達は人の気配がほとんどないショッピングモールに来ていた。
本来なら人で溢れかえっているはずの時間・場所だが、人っ子一人いない。
「おーおー、見事に全員逃げたやんな」
「全員じゃないでしょ。中に殺気遣いに殺された人達がゴロゴロ転がってるはずです」
「細かい男はモテないんちゃうかー、灰庭君?」
言い合っているのは引率のA級隊員、萬屋鈴音さんと、僕が所属するC-3隊の灰庭慧君だ。
萬屋さんが長い髪を払いのけて、僕達三人に改めて告げる。
「さて、このショッピングモールの中に殺気に呑まれて正気を失った殺鬼堕ちがいるわけやけど、彼を殺すのが君達がB級に昇格する条件やで」
「……殺す必要があるんですか? 拘束して時間を置けば正気を取り戻すかも」
「無理やで。正気を取り戻した前例はないし、その結果を得る過程で何百人もの人間が死んだんや。殺す以外の選択肢はない。それは勿論……」
萬屋さんは灰庭君にウインクを飛ばす。
「君が殺気に呑まれた時も同じやで?」
灰庭君はぐっと言葉に詰まる。黙り込んだ灰庭君に代わり、水沼観月さんが静かな声で僕らを急かした。
「早く行きましょう。まだ生きている人がいるかもしれません」
「いないと思うけどねぇ~」
「それでもです」
萬屋さんは僅かな可能性も潰さない、そう意気込んで握りこぶしを作る水沼さんを面白そうに眺め、僕に目を転じる。
「それで天羽沁君、年長者として君はどう思うんだい?」
「ぼ、僕ですか?」
情けない声を出す僕こと天羽沁、御年二十九歳に対し、大学一年生で十八歳の灰庭君はうっとおしげな視線を向ける。高校生で今年十六歳の水沼さんはただ感情の読み取れない視線を僕に向けている。
「……ま、まぁ社会の歯車たる僕としては殺さざるを得ないというか、僕がどう思うかなんて関係ないというか、そもそも死にたくないから近づきたくないというか……」
「うん、君は君で死んだ方がいいやんな」
萬屋さん(今年で二十四歳)は年上の僕も構わずバッサリと斬り捨てる。
「さて、ほんだらミッションスタートや。ウチは本当に何もしないで? せいぜい気張れや」