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限りある明日(いつか)  作者: 久藤 直子
1/1

難病の医師

自分はコロナに感染している。夫がそう電話をかけてきたのは、

この国で新型コロナウィルス感染症が騒がれて数ヶ月経った頃で、丁度私が癌の手術を受ける前夜、前日の処置も全て終わり、翌日の手術に向け早く寝ようと思っていたところだった。その前から、微熱があると何度も熱を測ったりと様子がおかしかった。

その夜も微熱があり、いつもは、測り直すと36度代になるのが

今回は、37・5度から下がらないのだと言う。自分が感染しているなら、私も感染していて、このまま入院し手術を受ければ、多くのスタッフに感染させてしまう、それを恐れて、すぐにでも退院した方がいいと私に話した。私は約1年前にも違う癌の摘出手術を受け、今回はもう手術はしたくないと話す私を医師や家族が説得し、ようやくの思いでその日を迎えていた。

暫く、夫が言う様に退院すべきか…このまま手術を受けるべきか悩んだ。私は後者を選んだ。何も症状がないからだ。

夜が明け、私は手術を受け、コロナに感染もしていなく、発熱する事もスタッフの皆さんに感染させる事もなく、順調に快復し退院した。

退院後の初受診で病理の結果を聞いた。取り除いた中に悪い細胞があったが、辛うじて袋の中にあり、外に飛びだしている様子はない為、転移はないという話だった。あの時、家族に説得されていなかったら、夫に言われるままに退院し、手術を延期していたら手の施しようがないくらい癌に蝕まれていたであろう。

家族に説得されて手術を決めた事やあの夜、夫の言う事を聞かず、手術に踏み切った私の判断は間違えていなかった。いつもそうであった。結婚してから夫と私のどちらにするか?の判断で夫の判断に従うと大体が残念な結果であった。そういった意味で夫は勘の悪い人間と私は思っていた。ただ

論理的に考えて結果を出す事には流石に理系人間とあって私より優れていた。私は推論するより第六感で動く人間であった。

右を選ぶか左を選ぶかは、論理的思考より勘が勝るという事かもしれない。私が入院している間も、感染する事、させる事を恐れて

面会には来なかった。退院する時にようやく子ども達と迎えに来た夫は、まるで浦島太郎の様に私が入院している数日間で、一気に

10歳、20歳歳を取ったかの様に老けて見えた。この人は一体どうしたのだろう?その時の疑問はずっと続いた。私が退院してからも

夫は、テレビを見ながら熱を5分毎に測り、不安がったり、安心したりと一喜一憂していた。その上、胸の苦しさなどないのに酸素飽和度を何度も測り、その行為に私は苛立ち、その器械を投げつけた事もあった。どうしちゃったの?夫は、好きなサイクリングやテニス以外、自分の体にはとても無頓着、何があっても、大丈夫と答えていた。夫の大丈夫は私をとても安心させた。どちらかというと

私の方が神経質で何でも気になり、先々と悪い予測をたてては焦ったり、不安がったりした。それが今では全く逆転し、夫は異常に

新型コロナ感染を怖がっている様に見えた。夫はコロナ鬱だ。そう思った。気分転換にと外へ連れ出そうとしても感染を怖がり嫌がった。ようやく週末ドライブに出かけようという約束にこぎつけても

当日、反故にした。自分が何かの病気だと信じてやまない夫に苛立ちながらも、この歳特有の体調不良だと言いきかせた。それは、

いずれ良くなると自分自身を安心させる希望的観測だったのかもしれない。そんな苛立ちの日々を過ごし、それは長い冬が終わり、これから気持ち良い季節となる私の好きな5月のある日だった。週末出かける事が好きな私達だったが、コロナ禍で夫が体調を崩してから、殆ど出かける事がなかった。又、約束を反故にされるだろうと思いつつも今週末どこかに出かけようかと話しかけた。すると夫が

数日前に同僚の神経内科の先生に診てもらったのだけど、病気かもしれない。そう話した。何の病気?と恐る恐る聞いた私に

ALS そう答えた


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