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アンナリーゼは落ち込んでいた。先日のあるお茶会での出来事が頭から離れない。
アンナリーゼが席を外し戻ってきた際、聞いてしまったのだ。
『アンナリーゼ様が王太子妃になられたら、私レンブラント様の側妃に立候補するわ』
『ズルいわ!それなら私だって』
『あら、貴方達なら愛妾で十分じゃなくて?私なら側妃として相応しいと思うけれど』
その後も暫く彼女達の攻防戦は続き……結局アンナリーゼが席に戻る事はなかった。
忘れていた訳ではない。ただ見ないようにしていただけだ。ずっと心の片隅にあった不安。
アンナリーゼは今はレンブラントの婚約者だ。婚約中は原則浮気は許されない。だが正式に婚姻を結び妻になれば、レンブラントはアンナリーゼ以外にも妻を迎える事が出来る。所謂側妃だ。無論愛妾だって認められる。
彼は王太子なのだ。側妃や愛妾などつくるのは当たり前で、責務とも言える。
アンナリーゼは、ずっとレンブラントからの愛情を独占してきたが、それも結婚したら終わってしまうだろう……。
「アンナリーゼ様?」
名を呼ばれ、アンナリーゼは我に返った。フロラが心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。
「顔色が優れませんが……お加減が悪いのでは」
「そう?そんな事ないわ。それより、レンブラント様からお手紙は届いてないのかしら」
「……はい」
フロラの返答にアンナリーゼは眉根を寄せた。まる3日だ。レンブラントから手紙が届かない。11年間で、こんな事は初めてだ……。
手紙も、お茶の誘いもないなんて……ふと先日のお茶会の事が頭を過ぎる。
もしかして……他に気になる方でも出来たのかしら……。
思えば最近は、レンブラントの手紙にアンナリーゼが返事を書く事はなくなった。お茶の誘いもいつもレンブラントからで、アンナリーゼから誘った記憶がない。
もしかしたら、見放されたのかも……自惚れていたのかも知れない、私。
瞬間頭の中が真っ白になった。
嫌、嫌……あの優しいレンブラント様の笑顔が他の令嬢に向けられるなんて、そんなの見たくない。
こんな事を考えてしまう自分は、なんておぞましいのだろう…… 覚悟が足らなかった……情けない。
「アンナリーゼ様」
「ごめんなさい、フロラ。1人にしてくれる……」
フロラは戸惑いながらも、丁寧に頭を下げると部屋から出て行った。部屋に1人きりになったアンナリーゼは、ため息を吐いた。