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今日はレンブラントとお茶の約束をしている為、アンナリーゼは城へと向かった。
「レンブラント様、遅くなり申し訳ございません」
「やあ、アンナリーゼ。今日も愛らしいね」
アンナリーゼは、レンブラントの言葉に頬を染め席に着いた。お世辞だと分かっているが、何度言われても慣れない。
「そういえば、先日のクロード侯爵家でのお茶会で、君にお茶を溢した令息がいたね」
「え、あ、はい……でも、ドレスの裾に僅かに掛かってしまっただけですから……」
「いや、それでも彼を許せない。僕の愛しいアンナリーゼに、お茶をかけるなど極刑にしたいくらいだよ」
やれやれといった軽い感じで肩を竦めているが、怖すぎる。お茶を溢しただけで極刑などと……。
「でも、残念ながら流石にそれは無理だから……彼には僕から罰を与えて置くから、安心してね」
寧ろ不安しかありません……罰とは一体、何をするのだろう……。
「そうそう、そのお茶会で出されたお菓子。アンナリーゼ美味しそうに食べていたけど、ああいうのも好きなんだね」
「はい、まあ……」
*注意、この日レンブラントはお茶会に参加していません。
レンブラントは常日頃よりアンナリーゼに監視を付けているらしく、全ての行動を把握されている。
故にアンナリーゼがどんな話題を振っても、全てに対応してくれる。どんな些細な事でもだ。
例えば昨夜の夕食のデザートが美味しかったと言えば「じゃあ、今度それよりももっと美味しいプリンを用意するね」と返してくる。レンブラントにデザートがプリンだったとは伝えていない。
たまに複雑な気持ちにはなるが、それだけ彼から愛されているのだと思う。
「どうかした?」
アンナリーゼからの視線を感じたレンブラントは、不思議そうな顔をする。
「い、いえ」
アンナリーゼは、頬を染め笑った。
「兄上」
暫くレンブラントとたわいのない話をしていると、不意に声が聞こえた。その声にアンナリーゼは身体をびくりとさせる。
「こんにちは、アンナリーゼ嬢」
「……ご機嫌よう、ルーカス様」
彼はレンブラントの弟であり第2王子だ。実はアンナリーゼは、少々彼が苦手だ。
「ルーカス、そこまでだ。君の席はそっち。それ以上彼女に近付く事は赦さないよ。まさか、僕の愛しいアンナリーゼに手を出そうなんて思ってないよね」
レンブラントが指さす場所は、隣のテーブルだった。結構離れている……。実は今日はルーカスもお茶に参加する予定だったのだが……これでは別々と言っても過言ではない。
「安心して下さい、兄上。常日頃より話していますが、私にはクリスタしか目に入りません」
するとルーカスから少し遅れてやって来た如何にも大人しそうな令嬢は、戸惑いながらこちらを見た。
「クリスタ、兄上とアンナリーゼ嬢に挨拶を」
「は、はい……。王太子殿下、アンナリーゼ様、本日は、お茶の席にお招き頂き……ありがとうございます……」
相変わらず愛らしい……。
アンナリーゼは、会釈をすると微笑んだ。すると恥ずかしいのか、クリスタは俯いてしまった。
「クリスタ、失礼だぞ。君は挨拶もまともに出来ないのか」
「も、申し訳……ございません……」
消え入りそうな声で謝罪を述べるクリスタを見たルーカスは、愉しそうに笑みを浮かべている。
そう彼はこういう人間なのだ。婚約者であるクリスタを苛めて至福を感じている……。
この兄にして、この弟ありです。
クリスタ様、大変そう……今度相談にでものって差し上げたい……。
アンナリーゼは、同情の眼差しを向けた。