3
アンナリーゼは、重い足取りで戻って来た。レンブラントを見ると、彼はハンカチを手にしてそれをじっと見つめていた。
いつもの、アレだ。
「アンナリーゼ、お帰り」
アンナリーゼは椅子に座ると、目を丸くする。お菓子がない。
「あの、レンブラント様……お菓子は」
「片付けさせたよ。残りは皆で分けるから、心配しなくてもいいよ。無理をさせちゃったね」
そう言うと、頭を撫でてくれた。昔から彼は事あるごとにアンナリーゼの頭を撫でてくれる。昔はアンナリーゼと然程変わらなかった手の大きさは、今ではアンナリーゼよりひと回りも大きく、包み込んでくる。
「あぁ、そうだ。アンナリーゼ、君に贈り物があるんだ」
その言葉に、笑顔のまま固まる。出ました。いつものアレです。贈り物が何かは聞かずとも知っている。
「ありがとうございます。大切に致しますね」
彼から受け取った物、それは……ハンカチだ。そしていつも渡した直後、レンブラントはソワソワとして落ち着かなくなる。その理由は……。
「その、アンナリーゼ。もし良ければ、君のハンカチを、僕に貰えないかな?」
「……私などの物で、宜しければ」
「ありがとう!嬉しいよ!」
オズオズとアンナリーゼは、レンブラントへとハンカチを差し出した。
この奇妙なハンカチ交換は会う度に行われる。何故レンブラントがこんな事をするのか、アンナリーゼは知っていた。
以前ハンカチを交換した直後に、席を暫く離れた事があった。そして戻って来た際に見てしまった……彼が、アンナリーゼが渡したハンカチを顔に押し当て匂いを嗅ぐ瞬間を‼︎
『はぁ……アンナリーゼの匂いがする……やっぱり、2日も経つと匂いが消えてしまうからね』
驚愕の使い道に、アンナリーゼは思考が停止した。
そして例の如く、公爵家には手紙同様にレンブラントから贈られたハンカチ専用の保管庫がある。そしてアンナリーゼはレンブラントに渡す用のハンカチを大量に仕入れなければならない……頂いたハンカチを渡す訳にもいかないのでハンカチはたまる一方だった。
ハンカチを手にして喜ぶレンブラントを見ながら、アンナリーゼは内心ため息を吐いた。