2
アンナリーゼは必死だった。
自分で食べてみたいと言った手前、残したら申し訳ない……。わざわざ用意してくれたのだから……でも。
どうしよう……食べても食べても減っているのかさえ分からない。それにもうお腹は膨れてしまい、これ以上食べれる気がしない。
アンナリーゼはちらりとレンブラントを見遣る。すると目が合った。彼は優しく微笑み返してくれる。
い、言えない。お腹いっぱいです……なんて。
「アンナリーゼ、美味しい?」
「は、はい、とても……」
城の菓子職人が腕によりをかけて作り、材料だっていい物を使っているに決まっている。美味しくない訳がないのだが……お腹が苦しい。
「どうかしたの?額に、汗が滲んでるよ」
そう言ってレンブラントはアンナリーゼの額に浮かぶ汗を指で掬うとそれを舐めた。
「っ⁉︎」
「うん、しょっぱいね」
そう言いながら舌舐めずりする彼に、アンナリーゼは固まった。身の危険を物凄く感じる。
だ、誰か‼︎
助けを求めるように焦りながら周りを見渡すが、侍女達は明後日の方向を見ており誰も目を合わせてくれない。
「アンナリーゼ」
レンブラントの声にびくりと身体を震わせる。
「唇にクリームが付いてるよ。僕が……舐めてあげる」
何故舐めるのですか⁉︎そこは拭いてあげるの間違いなのでは⁉︎
だ、誰か‼︎
再び助けを求め周囲を見渡すが、侍女達はいつの間にか後退りしており、かなり離れた場所にいた。そして何故か雑談をしている。主人そっちのけで、そんな事ありますか⁉︎
「心配しなくても、ちゃんと奇麗にするから。ほら、動かないで……」
そう言いながらレンブラントの顔がアンナリーゼへと、ゆっくりと近付いてきた。
実はまだ彼とは口付けをした事がない。まさか、このまま唇を舐められて……。心臓が破裂しそうな程高鳴る。
キュルキュル……。
「⁉︎」
だが唇が触れる直前、妙な音が響きレンブラントはピタリと動きを止めた。
「も、申し訳ございません!レンブラント様、私お花を摘んで来ますー‼︎」
アンナリーゼは真っ赤な顔をしながら、その場から走り去った。
「アンナリーゼ……食べ過ぎちゃったかな」
レンブラントは苦笑した。