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001 

 俺は都内某所に住むしがない社畜だ。会社はもちろんブラック企業。むしろブラックでない会社などこのご時世本当に存在しているのだろうか。おそらく都市伝説であろう。


 俺はいつもの激務を終え、帰る準備をする。時計はすでに1時を回っており残っている社員も俺を含めて数人しかいない。珍しいことに明日は土曜日なのに休日であった。え?土曜日は休日だって?それは学生までの話だ。社会に出るとそんなものは無くなる。


「お先上がりまーす」

「おつかれでーす」


 生気の抜けた声に同じく生気の全くない声で返事が返ってきた。俺の勤めている会社はゲームのプログラミングを下請けしている会社だ。バグの直しなどで休みはつぶれやすくその上有給はいつの間にか消費されている。まあ、その分給料が良いのだが。



 眠さを押し殺しながら家へと帰る。深夜だがコンビニや繁華街の光で辺りには若者がちらほらといる。

 

 信号が赤に変わったため俺は立ち止まる。ここはそれなりに大きな道路で大型トラックが結構通る。彼らも大変だな。

 そんなことを考えていると信号が青へと変わる。俺はろくに周りも見ずに横断歩道を渡る。

 

「おい、おっさん。危ねえぞ。逃げろ」


 コンビニでたむろしていた若者グループの1人が俺にむかってそう叫ぶ。

 その顔は妙に青ざめている。いったい何なんだ。


「はやくそこから逃げろっ」


 どうやら俺に逃げろと言っているようだ。

 そして俺の左側からけたたましいクラクションと共にトラックのヘッドライトが俺を照らす。

 そうか、これから逃げろってことか。

 そんなことを考えているうちにトラックは勢いよく俺へと突っ込んできた。

 体中の骨が折れ嫌な音が脳に響く。叫び声もかすかに聞こえる。

 体が宙を舞い、そして叩きつけられた。血がこぼれ出るのが分かる。手足の感覚が急速に失われていく。

 体温が下がり、もう目を開けるのも精一杯だ。

 これは死んだな…。見なくてもわかるやつだ。むしろ見えなくて幸いだったな。原型などとどめていないだろう。


 目の前から光が完全に消え去り、俺は暗闇の中を漂う。死んだはずなのになぜか意識がある。それともあの状態から助かったとでもいうのだろうか。

 しばらく暗闇を漂った後、体が浮かび上がった。徐々に目の前が開けていく。

 そして目の前が完全に見えるようになった。


 目に入ってきたのはでっぷりと太り額に汗を浮かべた巨人のおっさんであった。俺は思わず叫び声を上げそうになった。普通病院で目が覚めたら起こしてくれるのは奇麗なナースかセクシーな女医だろ。


 そのおっさんは手に持った布で俺の顔から身体までを丁寧に拭いていく。


「やめろ、気持ち悪い」


 俺はそう声に出したつもりだったが、なぜか声が出ない。

 

「よし、奇麗になったな。しかし今回は良い買い物をしたな」


 そういって俺を拭いていたおっさんは布を置き、俺をその脂だらけの腕にこすりつけてくる。


「なんなんだお前、まじできもいからやめろー」


 しかし先ほど同様、俺の声は出ない。俺は人を腕にこすりつけるのが趣味の変態巨人に捕まってしまったのだろうか。


「む、なぜはまらない」


 そう言うと脂デブは俺をより一層腕にこすりつけてくる。


「やめろ、糞ブタ。俺が何したってんだ」


 そんな俺を無視して腕にこすりつけていたが、あきらめたのだろう。俺を机の上に置いてどこかに行ってしまった。


 ようやくやめてくれた。なんだったんだ。あんな事故のあとに今度は心まで壊れるところだった。とりあえずあいつが来る前にここから抜け出さないと。


 俺は机から降りようと体を起こそうとする。しかし体に力が入らず動くことはできなかった。それどころか体に感覚が無いことに今更ながら気づいた。

 確かにあの事故だ。体が動かないくらいの後遺症が合ってもなんの不思議もない。むしろよく命があったというべきであろう。あのブタが誰なのかわからないがわざわざ助けた命を殺すことはしないだろう。動けるようになったら逃げ出せばいい。それまではなんとかやり過ごそう。


 そんなことを考えながら、俺はふと視線を横に向けた。そこには大きな姿見がありそこに俺が乗っているであろう机が映っている。しかしその上に俺の姿は無く、そこには装飾の無いシンプルな銀色の腕輪が置いてあった。よく見てもそこには1つの腕輪があるだけであった。そこで先ほどのブタの行動を思い出した。人を文字通り手に取って拭くなんてこと、普通は出来ない。しかしそれが人でなく、小さな腕輪なら。あれは腕にこすり付けていたのではなく腕輪をはめようとしていたのなら。俺は一命をとりとめたわけではなく、腕輪へと転生していたのなら。


 いままでの事がつながり、俺は何となく自分の置かれた状況を理解してきた。恐らく俺はテンプレ通り転生したのであろう。ここが異世界かはたまた前と同じ世界なのかはわからないが、1つだけ理解したことがある。俺はどうやら腕輪に転生してしまったらしい。

 確かに、今日の日本では転生物は流行っている。それをもとにしたゲームだって出ているくらいだ。しかしその中に人や生き物ですらない物に転生したものなどはたしてあっただろうか。


 別に不遇でもいい。ざまぁのしがいがあるから。別に弱くたっていい。死に物狂いで強くなるから。別に悪役だっていい。惚れ惚れするほどのヴィランを演じてやるから。しかしこれらの共通点は自分で動けること、すなわち、生き物であることが最低の条件だ。

 しかしどうだ。今の俺はどこにでもありそうなパッとしない腕輪だ。しがない腕輪に過ぎない。

 誰かに付けてもらわないと移動することもできないただの装飾品に過ぎない。

 結論を言おう。俺に主人公は出来ない。女の子に囲まれて冒険することも、秘められた力を隠して学園生活を送ることも、ライバルとの高め合いも。


 俺が密かに落ち込んでいると突如俺の目の前に半透明の板が現れた。

 

「なんだこれ」


 そこにはこう記されていた。






呪われた鉄の腕輪(0/100)

スキル:念話(持ち主のみ) 鑑定 筋力上昇(小)

呪い:持ち主限定(本人の認めた女性のみ着用可能)

SP:0






 俺は呪われているらしい。しかも鉄製というなんとも言えない素材だ。恐らくだがステータスがある時点で異世界であろう。

 だが女性限定なのは非常にありがたい。むっさいおっさんに付けられたくはないからな。

 それに憶測だが名称の横にある数字を100にすれば恐らくだが少しは強くなれるだろう。いわゆるテンプレってやつだな。


 先ほどまでは絶望しかなかったが少しは希望が見えてきた。

 俺は当面の目標を持ち主を見つけることに決め、自分のスキルを鑑定していく。

 

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