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34*避難所防衛戦 /9/



よし、これで終わり、だっ!

体育館内に侵入して来た食屍鬼の最後の一体を切る。

ムーンビーストは、既に熊谷さん達が倒し切っていた。四肢が全て外されている。

見た目は灰色のヒキガエルに近い。頭部には凡そ鼻や目と思われるパーツは無く、本来あるはずの場所からはピンクの触手、触覚が生えている。

今は距離を取っている為大丈夫だが、近くに居ると臭いもかなり辛かった。


「ふぅ…」

「お疲れ、兄ちゃん!」


琴葉に声を掛けられる。

…本来、こう言う労いの言葉は年上の俺が言うべきなんだけどな。


「あぁ。琴葉もお疲れ。」


一仕事終えた様な雰囲気になってしまったが、未だ敵は居る。気を抜いてはダメだ。


残りの敵を確認する為、ギャラリーに登る。

すると、遠距離能力者達が頭を抑えながらも、攻撃し続けていた。

窓の外を見ると、ミゴはかなり少なくなっている。既にミゴは全ての個体が前に出てきた様で、奥からは来ていない。食屍鬼は溢れるように続々と来るが。


あの新種の怪物…竜は傍観しているようだ。時たま、食屍鬼を適当に投げて来るくらい。

何故来ないのかは分からないが、かなり助かっている。今の状態で一気に攻められれば乱戦になる可能性が高い。そうなってしまえば、能力者、非能力者問わず無事では済まないだろう。


「能力者達は1度休め!相手は様子見してくれているようだ。休んでいる間、我々18班が時間を稼ぐ!」


俺と同じく状況を確認したのか、熊谷さんの声が響く。

確かにこのまま攻撃し続けて入れば、数分で倒れてしまうだろう。実際、既に1部は顔色が悪い。

……俺も休んでおくか。この状況なら、休める時に休んでおいた方がいいだろう。




………。

…。




「ぎゃぁぁああ!!」

「っ!?」


横になり休んでいると、悲鳴が聞こえた。男の声だ。

悲鳴?避難所内で?……疑問は残るが、何かが起こったのは間違いない。

何にせよ、様子だけでも見に行くべきだろう。俺は飛び起き、悲鳴が聞こえた方向に走り出す。


━━━発動。


体育館を出て、廊下を走る。よく廊下は走るなと言われるが、アレは人とぶつかって怪我をさせる恐れがあるからだった筈。今なら人は居ないはずだし、そもそも緊急事態だ。大目に見てくれるだろう。


声の位置的に、何かがあったのは恐らく上の階。階段を登り、見回す。


すると奥に━━一体の食屍鬼と、それに今にも殺されそうな、大学生3人組のリーダーが居た。

他の二人は見当たらない。単独行動中だったのだろうか。そう考えつつ、助ける為に全力で接近する。


━━━間に合わないか?

既に食屍鬼は拳を振り上げている。襲われている大学生は恐怖からか震え、泣いて後ろに逃げようとするだけで、全く抵抗出来ていない。

恐らく、食屍鬼を倒した時、常に後ろ、つまり安全な位置から攻撃し、自身が攻撃対象になることは無かったのだろう。


焦りが浮かぶ。ここで能力者を失うのはまずい。

間に合え━━━




ドス。



鈍い音がする。


「っ!」


颯爽と現れた校長先生が、大学生を庇っていた。

柔道か何かの経験者なのか、拳の威力を押し殺したようで、顔を歪めながらもしっかりと受け止め切っていた。


「おらァっ!」


食屍鬼の動きが止まったのとほぼ同時、攻撃圏内まで近付いた為、短刀で首を攻撃する。

その斬撃は完全に動きが止まった首へ綺麗に入り、そこから血が吹き出す。俺はそのまま反転。床を蹴り、もう一度同じ場所に刃を滑らせる。

1度では無理だが、2度同じ場所を切れば俺でも切り離すことが出来る。武の極み発動中であれば、位置を合わせるのは出来るからな。


食屍鬼の体を全力で蹴る。暴れられた場合、下手するとそれだけで大怪我を負う可能性があるからだ。

辺りをもう一度確認し、他に怪物が居ないか確認する。……よし、居ない。

ほっと息を付き、武の極みを解除する。


「晃峰さん、ありがとうございます。助かりました。」

「いえ、かっこ良かったですよ。」


実際、能力保有者でもないのにあの化け物の攻撃から身を呈して誰かを守るのは、誰にでも出来ることじゃ無いだろう。


「いやぁ、晃峰さんが助けてくれなければ、私共々やられていたでしょう。お恥ずかしながら、勝てるビジョンが全く見えませんでした」


照れているのか、頭を掻きながらそういった。

それを見て、我に返ったのか、今まで黙っていた大学生が弱々しく口を開いた。


「あ、あの!ありがとうございました!俺、遠くからアイツらを倒せて、調子乗ってました。遠藤…さんが助けてくれなければ、俺は…」


遠藤と言うのは校長先生の苗字らしい。初めて知った。


「良いんですよ。困った時はお互い様ですからね。」


それを聞いて大学生は目を見開いた後、目線を下げながら、乾いた笑いを出す。


「えっと…」

「蒼です」


笑い終わった後、何か言いたそうに俺の方を向いて考え込んだ為、名前を教える。

確か、教えてなかったはずだ。


「蒼さん、ありがとうございました。あんな絡み方した俺を助けてくれて…。俺、心を入れ替えて頑張ります!必ず、汚名挽回します!」

「……あぁ、頑張って下さい。」


どうやら後悔や感謝をするくらいの良心はある様だ。頑張ると言うなら、応援はしておく。どんな人間でも、今は貴重な戦力には間違いない。


………にしても、何処から現れたんだろうか、あの食屍鬼。

ここは2階だ。穴を掘って地下から来るなら1階に居るだろう。殆どが体育館に集まっているとはいえ、全く一通りがない訳では無い。移動していたなら、誰かしらが見掛けていてもおかしくない筈だ。

上から来たと考えるには食屍鬼は飛べないのだし、投げられて入って来たのなら窓が割れている筈だ。だが、そんな形跡はない。


「そう言えば、食屍鬼ってどこから来たか分かります?」


ここは、襲われた本人に聞くのがいいだろう。後ろからなら一撃でやられているだろうし、何かしら知っているはずだ。


「あっ、そうなんですよ!アイツ、俺の目の前に急に現れたんです!何も無い所から出てくる様に!」


思い出したかの様に説明する。これが本当なら、何も無い所から新しく生まれるのか?

もしそんな事があれば、安全な場所などどこにも無い事になる。

………ただ、食屍鬼が現れてから今日まで2週間もあったのだ。もっと前に避難所の中に現れていても不思議じゃない。

……なら、こうなってから今と違う事に原因があるのかも知れない。

何時もと違う所は━━━


━━━竜か。



「若しかすると、あの竜がテレポート的な能力を使える可能性があります。戻った方がいいかも。それと、単独行動はしないように呼びかけた方がいいと思います。」


若干ファンタジー系の小説やアニメの方向に思考が寄っている気もするが、取り敢えず、竜がテレポート的な能力を使えると仮定して。

重要なのは、その能力の制約。自分以外の物しか飛ばせないのか、自分も飛ばせるのか。見えて居ないと飛ばせないのか、関係無いのか。

……一先ずは、戻って涼葉姉と萌と合流した方が良さそうだな。

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