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33*避難所防衛戦 /8/



食屍鬼が完全に動かなくなった事を確認し、体育館の中に戻ってみると、熊谷さん達や能力者集団が戻って来ていた。

そして、斧使いの人が扉を抑えている。……撤退して来たのか。


端に避けられているが、数体の食屍鬼の死体がある。恐らく、あの竜に投げられて来たヤツらだろう。

若しかすると、校庭に投げられた奴は陽動の様なものだったのかもしれない。


「窓を開けろ!ミゴを狙え!」


熊谷さんの指示が飛び、一部の人が動き出す。琴葉、諏訪さん、校長先生等だ。

俺も手伝いに━━


「グぁッ!」


斧使いの人の声が聞こえた方向を見ると、肩に何かが刺さっている。

そして、抑えていた扉の中央に、風穴が。


「ムーンビーストだ!」


斧使いの人が叫んだ瞬間、扉が突破され、奥から食屍鬼、猟犬、ムーンビーストが入って来る。


━━発動!


まだ大丈夫。まだ耐えられる。震えても居ない。今は助ける事だけを考えろ…。

一先ず斧使いの人が離脱出来るよう、手伝いに行く。ここで戦力を失うのは辛い。

避難民達が反対方向に逃げている為流れが出来てしまっているが、それに逆らい接近する。

トドメを刺そうとしている食屍鬼の横から短刀を振るう。

ザクッ。


「っ!」


首の3分の1程切った所で止まってしまうが、体重を掛けゴリ押しする。


「どけっ!」


声に従い、無理をせず短刀を抜き、横に飛ぶ。そこに、斧使いの人の攻撃。

丁度俺が切りかけた所でパックリ割れ、かなりグロくなっているが、仕方ない。

斧使いの人を見ると、苦しそうに顔を歪めている。既に肩に刺さった物は抜いているが、そこから血が流れ出していて、戦闘は辛そうだ。


「萌…俺の妹が回復系能力を持ってます。治してもらってください。…あの子です」


斧使いの人に、避難民の集団の中に居る萌を指さして伝え、1度回復してもらうように言う。

するとほんの少しの逡巡の後、斧使いの人は頷く。


「助かった」


斧使いの人はそう言って、痛みを堪えながら萌や避難民達が行った奥側に走って行く。

辺りを見ると、戦闘能力を持たない避難民は奥の壁際に寄っている。

外に出ても空から飛んでくる可能性が高い為、出るに出れないのだろう。

琴葉や熊谷さん達が、食屍鬼を避難民の方に寄らせないよう、しっかりとヘイト管理をしている。

……よく見ると、食屍鬼達は1番近くにいる人を襲っているように見える。

もしかして、離れているとミゴの指示が届かないのだろうか。

その可能性はある。さっきの食屍鬼だって、他の奴と協力すれば斧使いの人を殺せたかもしれない。それなのに、他の食屍鬼はそれぞれ近くの人に襲いかかっている。


乱戦。俺は一撃で食屍鬼を倒せない。人、食屍鬼、ムーンビースト、人。

…そう言えば、猟犬は?

猟犬に意識を向け、もう一度辺りを見回すと、全て校庭の方に走って行っている。

どういう事だ?……いや、今は確認よりもこっちだな。

ムーンビーストは数が今の所少ない。俺は戦った事がないし、攻撃が通るかも分からない。

熊谷さん達が態々貰ってくれているのだし、ここは食屍鬼を減らす事に集中した方がいいだろう。


ムーンビーストには手を出さず、既に戦っている食屍鬼を後ろから奇襲する事にする。

態々正面から行く必要は無い。

…乱戦の為、遠距離能力者達が参戦出来ないのが辛い。石も仲間に当たる可能性がある為使えないし、火に関しては体育館の床が木製なのだ。間違っても使う訳にはいかない。


「ふッ!」


琴葉と戦っていた食屍鬼の一体に接近し、後ろから腕を狙い短刀を振り下ろす。

振り下ろすまでは手動だが、位置、角度は武の極みに任せる。俺がやるより正確なのだ。

慣れとか代償とか今は言ってられない。


既に手負いだったからか、一撃で食屍鬼の首を切断することに成功する。

そのままの流れで、もう一体の腕を狙う。

すぐ横で仲間が切られたと言うのに、その食屍鬼は全く興味を示さず、琴葉を狙っている。


「りゃぁ!」

「っ!」


琴葉の攻撃に合わせ、腕を切り付ける。

反撃しようとした食屍鬼は突然の別方向からの攻撃でバランスを崩し、見事に空ぶってくれた。

トドメは言葉に任せ、1度能力を解除する。

ズキリ、と頭が痛み、体、主に腕と足に痛みが走るが、動けない程でもない。大丈夫だ。


「兄ちゃん!助かったぜ」

「あぁ。」


そう答えた瞬間、何かが飛んでくるのを、視界の端に捉えた。

避けろ!動け!そう体に命令しても、恐怖からか、それとも単純に能力の問題か。動かない。動いてくれない。


━━━発動!


「っ!」


再び能力を発動し、琴葉ごと前に倒れこむ。

その直後、いまさっき、俺達がいた所に突き刺さる、紫色の槍。……ムーンビーストの、流れ弾の様だ。

冷や汗が流れる。能力を発動していないと、咄嗟に避ける事すら出来ないなんて。


「オラァ!」


突然近くから声が聞こえ、血が降りかかる。

見ると、後ろから来ていた食屍鬼を斧使いの人が倒してくれていた。……全く、気付かなかった。


「これで貸し無しだな。」

「ありがとうございます。」


元々貸しを作ったつもりは無かったのだが。

何はともあれ助けて貰った為、しっかりお礼は言う。下手すれば……いや、下手をしなくとも死んでいただろう。


「お前達も1度回復して貰ってきたらどうだ。少年は兎も角、嬢ちゃんは傷だらけだぞ」


言われて気付く。よく見ると、琴葉は数箇所擦り傷や服が破け掛けている所がある。

俺も反動で多少ダメージを受けているし、回復して貰った方がいいかもしれない。その方が、萌と涼葉姉を守れる。


「………わかりました。」


そう言って、琴葉と共に1度戦線を離脱する。


「蒼にぃ!こっちゃん!」


避難民が集まっている所まで下がると、萌が駆け寄ってきた。後ろから、涼葉姉も来ている。

解除。念の為、発動したままだった能力を解除する。余裕が無い状態で使ったからか、やった事と発動時間に対して反動が大きい。


「蒼くん!琴葉ちゃんも、大丈夫?」

「涼葉姉、大丈夫だよ。」

「姉ちゃん!私も大丈夫だよ!」

「よかった…」


心配そうに聞いてきた為、大丈夫だと答える。すると、ほっとしたように息を吐きながら、呟いた。

聞くと、室内戦闘に参加出来ない能力者は、ギャラリーに登ってミゴを攻撃していたらしい。涼葉姉はそのサポートをしていたとの事。別の所で戦っていた様だ。


そんな話をしている最中、萌はずっと回復を掛けてくれている。痛みも大分引いてきた。

体育館内の戦いはそろそろ終わりそうだ。残りは、熊谷さん達が戦っているムーンビースト4体と、食屍鬼が13体。床は血塗れで、食屍鬼の死体とムーンビーストの死体が転がっている。

琴葉も回復が終わった様だし、早く倒し切ろう。

遠距離攻撃部隊が戦ってくれているからか今の所敵の追加は来てないが、いつ来るかわからない。

早めにここの敵を全滅させた方が良いはずだ。


【晃峰 涼葉】




「蒼くん……」


私は、再び侵入して来た怪物を倒しに行った弟の名前を呟く。

私達は6人家族。………もう、半分になってしまったのだけど。両親に続いて、お兄ちゃんも失ってしまった。今や、私が最年長。

蒼くんは変わった。今でこそ、私達を守ろうと必死になって戦ってくれているけど、元々はそんなに仲がいい訳じゃなかった。

良くも悪くも、普通の家族。普通の兄弟姉妹。

それが変わったのは、両親が死んで、私とお兄ちゃんが必死にバイトを始めた頃。

私達を見て何を思ったのか、その頃虐められて不登校になっていた蒼くんは、再び学校に行くことを頑張り出した。

目に見えて我儘を言う回数は減ったし、私達に迷惑をかけないようにと頑張っていた。

それ自体は凄く助かったけど、その頃から表情はどこか作り物めいた物になった気がする。


大好きだったゲームをやる事もほとんど無くなって、笑ったり、泣いたりしている所を見かけなくなった。愛想笑い、苦笑いはあったけど。

そのまま1年が経って。こんな事になって。蒼くんは私達を守ろうと凄く頑張ってる。寧ろ無理してるんじゃないかな。

蒼くんの能力、武の極みの代償は下手したら命さえ落とす物。2年前の蒼くんならまず間違いなく使わなかったし、封印すらしてたかもしれない。

なのに、今の蒼くんはそんな物を簡単に使う。大体が私達の為に。

気持ちは分かる。私だって、蒼くんと萌の為に頑張りたい。萌だって、使うと頭痛が来る治癒を使って頑張っているし、辛いはずなのに笑顔を振り撒いてる。

掃討作戦の時、腕を折られて、それでも戦って、倒して、崩れ落ちて。

凄く怖かった。


……お願いだから…本当に、無理はしないで。私はもう、家族を失いたくないから。




「すみません、晃峰涼葉さんですか?」


急に、声を掛けられる。振り向くと、蒼くんのひとつ上くらいの青年が居た。

髪はボサボサで、表情が殆ど無いけど、蒼くんに何処と無く顔立ちが似てる。


「はい。なんでしょうか?」

「これを。肌身離さず持っていて下さい。」


そう言って、何やら御守りのようなものを渡して来る。

凄く怪しいけど、目から真剣さが伝わって来る。重要な物なのかな?

……一応、受け取っておこうかな。


「……わかりました。」

「ありがとうございます。それでは。」


渡すだけ渡して満足したのか、青年は去って行く。

何だったんだろう。………これ、付けておいた方がいいのかな?

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