30*避難所防衛戦 /5/
涼葉姉を保健室に無事届け、戦況を見る為に戻って来ると、避難所内は呆然としていた。
寝ている人は居ない。戻る途中に聞こえた発砲音で起きたのだろうか。
俺はギャラリーに登り、窓から戦闘を見る。
すると、外の地面が無かった。……いや、違うな。
食屍鬼の死体と夥しい量の血、それと夜の暗闇で、地面が見えないだけだ。
見渡す限りの食屍鬼、食屍鬼、食屍鬼、食屍鬼。血、血、血、血、血、血。
死体の量的には、先鋒よりも数が多い様に見える。火を放ちに行った時は、暗闇で具体的な数が分からなかったのだ。
その上空には、血を流している十数体のミゴが飛んでいる。銃弾の雨は、ミゴには効果が薄い様だ。
猟犬に関しては、食屍鬼を盾にして数体生き残っている。
それでも、この量を一掃出来るなら、避難民に希望を見せることが出来ただろう。
残っている食屍鬼は、さほど多くない。恐らく発砲時奥に居た奴らだけだ。
「撃てー!」
そこに、遠距離能力者部隊の追撃が入る。既にダメージを受けているミゴは、それを避ける事が出来ない。
炎が燃え移り、辺りを照らす明かりになっている。
一方猟犬の方は、軽い身のこなしで華麗に避けている。
━━━近距離は辞めた方がいいって、遠距離も当たらないじゃないですか…赤城さん。
だが、能力を避ける為に食屍鬼の肉盾を捨てている個体が多い。
18班の方を見ると、銃のリロードが終わった様だ。既に猟犬を狙っている。
その直後、ダダダダダダダダダダダと再び銃声が響く。
夜中で辺りは静かな為かなりうるさく感じるが、同時に頼もしくも感じる。
猟犬は、既に倒れている食屍鬼の体を起こして盾に出来るほど器用ではないようで、必死に避けようとしているが、被弾し始めている。
全滅するのも時間の問題かもしれない。
……これ、銃と遠距離能力者だけで良くないか?俺、要らなくね?
そんな考えが頭を過ぎるが、弾も無限じゃないし、節約くらいは手伝えるか、と考えを改める。
発砲を渋っていたのもきっと残り弾数が心許ないのだろう。きっと。
そんな事を考えている内に、猟犬は全滅し、18班の面々、能力者達は避難所内に戻って来ている。
残りの食屍鬼は放置で、立てこもるのだろう。
奥に居る食屍鬼も、特にこちらに攻めてくるわけでもなく四方八方に散っている為、ミゴの生き残りは居ないようだ。
2戦目が終わり、やはり疑問は敵の数と猟犬だろうか。報告によると全体は380で、ミゴと食屍鬼のみだったはず。
だが、先鋒で約150。今回はそれと同じか多い。つまり、最低でも300は投入している事になる。
これはスポーツの試合でもなんでもないのだから、ルール等はない。
3部隊目、4部隊目がものすごく数が少ないかもしれないし、途中で後ろの部隊と合流した可能性もある。
いや、3、4部隊目が物凄く少ないなら、報告時に「4部隊に分けられる」ではなく「2部隊の後ろに数十体」と報告されるのだろうか?…分からないな。
……兎に角危惧すべきなのは、掃討作戦の時と同じく、敵の数が増えている可能性。
前例がある為、ないと言いきれないのが怖いな。
…まぁ、次の襲撃で分かるか。
増えて居ないならそれでいいし、増えているなら4戦目に向けて警戒出来る。
それより、久しぶりに夜の狩りに行く事にする。
3襲撃目が来るのは、明日…今日の昼頃らしい。時間もあるのだし、休む時間も取れるだろう。
ポイントは幾らあっても足りない。少しでも貯めておいて損は無いだろう。
因みに、ミゴは焼いてもポイントになるらしい。結構貯まっていた。
…………………………………………………………。
…………………………………。
「ッ!」
避難所に近めかつ孤立していた食屍鬼に短刀で切りかかる。
勿論奇襲だ。そろそろ定型化しそうな奇襲で腕又は足を1本切ってから首を切る流れ。
セミオートでも簡単に倒せ、更に掛かる時間も少ない。
使える場面は「奇襲する為にバレていない状態で、尚且つ食屍鬼が単体で行動している時」と少ないが、ある程度安全に倒せる方法があるのはかなり助かる。
「…っ!?」
食屍鬼を倒し、そんな事を考えていると、どこかから声が聞こえた…気がする。
何処だ?
…………笑い声?
耳を澄ませて居ると、さっきよりもしっかり聞き取れた。
狂気をはらんだ笑い声のような…あっちか。その声を頼りに、暗闇の中を進む。
近付くに連れて、声がはっきりと聞こえるようになってきた。
「あはははははは!ははははっ!」
よく聞くと、笑い声の他にザクッ…ザクッと刃物を何かに刺す音も聞こえる。
明らかにヤバそうな雰囲気だ。物陰から、隠れて見た方がいいかもしれない。
そう判断し、近くの二階建て民家に入る。
既に声の近くまで来ている。この上からなら、見ることが出来るかもしれない。
そっと窓から覗いてみると、下には食屍鬼…と、猟犬の死体の山。
全て死体の一部が、不自然に、まるで無くなったかのように、削れている。
その頂上には━━━━
━━━━無表情だった青年が座っていた。
*ギャラリー
体育館の2階にあたる部分の事。偶にボールが飛んでいくあれ。