3*崩壊する日常/3/
「こっちです!」
あと少し…!早く…!早く…!
「ここです!」
俺は暁兄と別れた通路に続く分かれ道を曲がりながら、青年に伝える。
頼む、暁兄…生きててくれ…!
そして、曲がりきった俺の目に映ったのは━━━
━━━あの、人型の化け物とは別種の怪物と、ソレに吹き飛ばされる……暁兄の姿だった。
「あっ…」
その光景に、声が出てしまう。
暁兄は吹き飛ばされた勢いのまま住宅街の塀にぶつかり、動かない。
見ると、左腕を失い、額から血を流していた。
「暁兄!」
俺は思わず、叫びながら駆け寄る。
「おい!馬鹿野郎!チッ」
後ろから、青年の制止が掛かる。
しかし、暁兄を吹き飛ばした方の怪物に襲いかかられ、ソレと戦闘を開始した。
「暁兄!大丈夫!?」
「…蒼、か?」
目を開けるのも難しい様で、声で判断している様だ。
近くで見ると、かなり酷い状態になっている。
身体中に傷が出来、出血も酷い。早く止血しないと死んでしまうのでは無いか。そう思う程の量だった。
「そうだよ!暁兄!」
「そうか…。俺の…事は、後でいい。」
「でも!」
「先に……アイツら、だ!」
それは、先に化け物をなんとかするべきだという事だろうか。
……確かに、俺じゃあ満足に治療も出来ない。治療できる人がいる所に運ぶにも、化け物共が邪魔だ。
振り返り怪物共を見ると、青年と戦っている怪物は中学校に現れた奴より強い様で、かなり苦戦している。それでも、押しては居るようだ。
中学校現れた奴もこの場には未だ2体いる。
…暁兄は、この三体から攻撃を避け続けていたのか…!……俺なら、既に死んでいただろう。
どうにかして、中学校に現れた奴だけでも倒さないと。
何かないか…なにか………?
頭の中に、知らない筈の知識がある。
「なんだ、これ…。」
「……!おい、お前!これを使え!」
俺の困惑に何か心当たりがあった様で、それだけ言って青年から短刀を投げ渡される。
なんでただの中学生に、こんな刃物を渡してるんだよ…。
…だが、この武器と力を使えば、俺でもこの化け物を倒せるかも知れない。
……暁兄を助けるにはやるしか、ない。
「うおぉぉぉあぁぁぁあ!!」
俺は叫びながら、怪物に向かって走り出し、ソレを発動させた。
瞬間、俺の動きが変わる。
自分の体が、自分の物じゃないような感覚。
体は勝手に最適な動きに変わり、どう考えても俺の限界を超えているような動きをする。
━━━━怖い。
全身に寒気が走るが、化け物は倒せて居ない。
相手の巨躯から繰り出される拳を、短刀を使って受け流し。空ぶった相手の隙を狙って首を切る。
後ろから迫る薙ぎ払いを見もせずに伏せて避け。振り向き様に蹴りを入れる。
…どう考えても、俺が出来る動きじゃない。
……はは、怖いな。
だが、これに頼るしか…今の俺に、この化け物を倒す方法はない。暁兄の仇ッ!
「あぁぁぁぁぁあああ!!」
喉を潰さんばかりに叫びながら、首を切った方の化け物に、渾身の一撃を入れる。
そいつは、盛大に血を噴き出しながら、倒れていく。……よし、一体倒し━━
━━た?
「えっ?」
化物を倒してやったと思ったその瞬間、全身からフッと力が抜け、体が地面に倒れる。
動こうとしても、体が動かない。全身が焼けるように痛い。
「あ…」
動かなくなった獲物を潰そうと、もう一体の化け物が拳を振り上げる。
避け無きゃ。避けないと。
━━━━死ぬ。
……が、俺が死を覚悟したその瞬間。全身を切り刻まれ、その化け物が、振り上げたその拳を振り下ろす事は無かった。
視線を動かすと、青年が別種の怪物を倒し、俺を殺そうとしていた化け物も倒してくれていた。
青年は、かすり傷こそあるものの、殆どダメージを受けていない。
俺なんかとは、レベルが違う。
「そうだ、暁兄…!」
殆ど動かない、痛みで悲鳴を上げる体に鞭を打ち、暁兄の方へ進む。
時間を掛けて側までくると、暁兄が、辛そうに目を開け、口を開いた。
「……ありがとな。俺の……為に、仇を…討ってくれて。」
「暁兄…喋らない方が…っ」
素人目に見ても、かなり傷が深い。喋らない方がいいだろう。まだ…助かる、よな?
「蒼…ごめんな。」
「えっ…?」
……何が。
……なんで。
自分の目尻に、雫が溜まるのが分かった。
暁兄は、そんな俺の肩に手を置いて、言う。
「俺はもう、無理だ。」
「そんな事…!」
「代わりに…萌と…涼葉を…頼む。」
それだけ言うと、暁兄は動かなくなった。
動かなく、なってしまった。
腕は力なく地面に落ち。
必死に開けていた目は、閉じてしまっていた。
……涙を流しながら。
言いたい事だけ…いいやがって。
頼むって…なんだよ。
……。
「うっ…ぐっ…っ…うあぁぁぁぁぁあああ!!!!」
……………。
……………………………。
「はぁ……っ…ぐっ…ありがとう…ございます。」
「あぁ。」
俺が泣いている間、ずっと後ろで待っていてくれた青年に感謝する。
「……優しいんですね。」
「そうでもない。」
青年は、ぶっきらぼうに言ってくる。
普通の人なら、こんな状況だ。
見捨てて置いていっても可笑しくないだろう。
「……まだ、家族が居るんだろ。合流するぞ。」
「………やっぱり、貴方は優しいですよ。」
緊急事態で、見ず知らずの人の為にここまで出来る人は中々居ない。
口調はぶっきらぼうで、態度は悪いが根は優しいのだろう。
移動の前に、暁兄の遺体を大事に両手で抱え、‘’力‘’を使って回収する。
兄を、化け物共にくれてやるものか。
「…さぁ、行きましょう。」
痛みはまだあるが、もう動けない程じゃない。早く、合流しよう。
━━そうして、俺は兄を失った。