29*避難所防衛戦 /4/
さて、早く戻らないと。
邪魔されない為とは言え、何も言わずに別行動をしたのだ。
涼葉姉と萌を心配させる訳には行かないし、戻ったら謝らないとな。
…………………………。
……………。
「すみません!勝手に行動して!」
戻ると、食屍鬼の最後の一体が倒される所だった。
斧使いの人と無表情の青年が主に倒した様で、体の一部が消えている物と、頭や体の一部が割れている食屍鬼死体が多い。
「いや、無事ならいい。それより、急に食屍鬼連携が崩れたんだが何かしたのか?」
「食屍鬼単体で連携しないと聞いていたので、違和感を感じまして。」
「…ミゴが残っていたのか?」
「はい。死んだフリをして居ました。それにトドメを刺してきたんです」
そう説明する。
斧使いの人は少し考えた後、口を開いた。
「……まぁ、それならいい。よくやった。次の襲撃に備えて早く戻るぞ。」
と言って、避難所に戻って行く。
俺も戻ろう。
「次の襲撃って、どのくらいの時間になりそうなんですか?」
「…0時過ぎ、くらいか。」
次の部隊が来る時間を聞くと、熊谷さんは頭を抱えながらそう答えた。
0時、大体の人が眠くなってくる時間だろうか。
勿論戦わないと言う選択肢はないが、もし長引いて徹夜なんて事になればモチベは最低だろう。頭が痛い問題だ。
……………………。
…………。
「これから作戦を発表する!」
それから約30分後。どうやら、方針を決めたらしい。
熊谷さんと校長先生が、避難民全員に向けて喋っている。
俺の横には、頭痛が収まった涼葉姉と、涼葉姉に頭を撫でられている萌が居る。
「まず、先鋒と同じ様に、待ち伏せと遠距離からの攻撃でミゴを殺す!そして、食屍鬼は殲滅せず撤退だ!」
ミゴの指示を失った食屍鬼なら、数名だけでも守りきる事は出来る、という考えだろうか。
「今から名前を呼ぶ奴は、すぐに休んで寝てくれ。火を投擲するやつと、遠距離攻撃をする奴だ。沙恵、晃峰蒼、涼葉━━━━━」
俺と涼葉姉、琴葉は少なくとも半強制のようだ。
俺と琴葉は兎も角、涼葉姉の能力は他の風系の能力者の物より攻撃に向かない分、制御はそこそこ出来る。
この作戦には、攻撃力は要らないからな。
俺は萌を少し撫でてから、横になる。最近は体を動かしているからか、眠気が来るのが早いのだ。
……………………………………。
…………………。
「……見えた。」
敵がそろそろ来ると言う報告で起き、既に移動した所だ。
最初と同様少し待つと、うっすらと見えてきた。今は真夜中の為、食屍鬼がすごく見辛い。
暗さに目が慣れたお陰で、赤い目とミゴは見えるのだが。
「…?」
あれは、なんだ?犬?
食屍鬼の集団の中に、良く見ると青白い犬のような物が見える。
青白い…犬?何処かで聞いた事がある…そうだ。
赤城さんが言っていた奴だ。猟犬。
まだ少し距離がある為よく分からないが、食屍鬼の大きさから考えて、大型犬くらいか?
いや、大型犬、中型犬って重さで決まるんだったか。
それが、数匹。ミゴと食屍鬼だけじゃなかったのかよ!
「…同じくらい、か。」
食屍鬼と並んでいるという事は、それ程スピードは早くないのだろうか?
それとも、態々合わせているのか。
「涼葉姉、早めに離脱しよう。」
「蒼くん…わかった。」
多少減らせる数が少なくとも、命を大事にするべきだ。
前回よりも早めに切り上げる事にし、タイミングを待つ。
『そろそろです!』
━━━━━━発動。
よく見て狙え。涼葉姉に負担を掛けるな。
集中だ、集中。
『3…2…1…今!』
諏訪さんの声と同時に、火をつけたままのライターを投げる。
今回は2個目を投げずに、直ぐに逃げる準備。窓を開け、外を確認する。
『諏訪さん!敵に犬型の別種が混ざってます!先に報告を!』
『了解』
俺より先に退避したであろう諏訪さんに、代わりに報告して貰う。
涼葉姉を見ると、ある程度諦めた様で能力発動を終えていた。頭を抑えている涼葉姉を直ぐに持ち上げ、窓から飛び下りる。
後は、全力ダッシュ。
………因みに今回は、お姫様抱っこの形である。背負うより疲れそうだが、涼葉姉は楽だろう。
物凄く、恥ずかしそうではあるが。
………………………………………。
……………………。
「放て!」
俺達が避難所に戻るとほぼ同時に、避難所から遠距離攻撃が一斉に放たれる。
熊谷さんは、猟犬には遠距離攻撃と言う事を知っていたのかもしれない。と言うかWMHAの人なのだし、知っている方が自然か。
俺は涼葉姉を降ろし、避難所の中に入る。
遠距離攻撃は、猟犬とミゴを狙って打たれてはいるが、数個食屍鬼が身代わりになっているようだ。
思ったより減らせていない。
「お前達は休め。俺達がなんとかする。」
どうしようかと悩んでいると、熊谷さんが声を掛けてきた。その手には、全長1mくらいの銃を持っている。
仲間は斧なのに、リーダーだけ銃使うのかよ、と一瞬思ったが、他の18班の面々、斧使いの人も含めて全員が銃を持っていた。
何処か、若しくはリーダーの許可が無いと、銃は使えないのかもしれない。
WMHAが使うという事は、怪物に銃が効かないなんて事はないのだろうし、任せても大丈夫な筈だ。
「わかりました。」
俺はそう言って、涼葉姉を保健室に連れて行く為に背負う。
「そ、蒼くん、歩けるから…」
背中で何やらぶつぶつ言っているが、涼葉姉に倒れられたら困る。
ここは、無視だな。