17*食屍鬼掃討作戦 /4/
「何っ!?」
「どうしました?」
そんな風に戦況を眺めていると、急に熊谷さんが声を上げた。
何やら通話していた様で、かなり焦っている。
「あー……いや、すまない。君に頼みたい事がある。」
「話を聞いてから考えます」
熊谷さんは、俺に言っていいものか悩んだ様だが、そんな事を考える余裕はないようで、直ぐに俺に頼んできた。
「実は、西方面に15体の食屍鬼と3体のミゴ…浮遊タイプの怪物が現れた様なんだ。」
「なるほど?」
ミゴは赤城さんによると、ピンク色の甲殻類の様な見た目で、食屍鬼より知性があるようだ。
その代わり、食屍鬼より物理は弱い…らしい。
「我々はここを守らないと行けない。他のメンバーは食屍鬼が溢れている南に行っている。西にも既に避難民から数名が向かったが、重傷者も出ている様だ。……怪我をしている君に頼むのは申し訳ないが、救援に向かってくれないか?」
「…了解です。誰が向かったかとどの辺にいるか教えて貰っていいですか?」
「あぁ。勿論だ。まず敵の位置が━━━」
━━━━━━
……道中の食屍鬼も倒すべきか。
俺達は今、西で18体の怪物と戦っている避難民能力者の救援に向かっている。
聞いた話によると、既に諏訪さんとソロ気質のある幼女━━琴葉と言う名前らしい━━が、向かっているらしい。
怪我人は、死傷者が2人、重傷者が7人、軽傷者18人出ていて、今戦っているのは軽傷者含めて32人。
既に半分以上が怪我を負っているようだ。
そして、現在救援に向かっているのは俺達を含めて9人。かなり劣勢だが、それでもやるしかない。
今ですら劣勢なのだから、敵に固まられたら溜まったものでは無い。離れている奴らも優先して倒すべきだろう。
発動!
……そろそろ発動回数は2桁を越えたはずなのだが、未だに慣れない。
どうしても、恐怖が襲ってくる。
…これも、代償だと思って耐えるしかないか。
念の為後ろにも警戒しつつ、奇襲で飛びかかり、短刀で左腕を奪う。返り血は気にしない。
その時間で全滅でもされたら、救援に行く意味が無くなるからだ。
…………よし。左腕が折れていても、いつも通り殺れる。
能力を解除しつつ、食屍鬼の薙ぎ払いを避ける。
……何体も戦っていて分かったのだが、食屍鬼は片腕を奪われると薙ぎ払いの動作が多くなる。
それと、右腕より左腕の方が切りやすい。
薙ぎ払いは予備動作が多く、能力を解除した俺でも避けられるレベルの大ぶりで、正面からの突進やシンプルな拳より避けやすい為、左腕を毎回狙う事にしたのだ。
……どうせ、俺では一撃で倒す事は出来ないのだし。
能力を再発動し、薙ぎ払いを空ぶったせいですぐに攻撃に出れない食屍鬼の隙を付いて足を攻撃する。
一応問題ないとは言え、負傷している状態だ。安全も考え、敵のバランスを崩す事を考える。
俺の狙い通り、食屍鬼は薙ぎ払い後の体制ではバランスを保つ事は出来ず、その巨体を倒す。
そこに畳み掛けるように突撃し、首に短刀を入れ、切る。
しっかり切れた事を確認し、最後の抵抗で暴れられても大丈夫な様に、すぐ様走って距離を摂る。
途中、左腕が食屍鬼に当たり痛みが走ったが、耐えられないほどでは無い。俺は辺りを見渡し、敵が見えない事を確認してから店を発動する。
…………よし、ポイントが増えている。
確実に死んだ事を確認した為、能力を解除し萌と涼葉姉を呼ぶ。
大丈夫、さっきよりは全然耐えられるレベルだ。
「っ…萌、涼葉姉、出て来ていいよ!」
「蒼にぃ!お疲れ!」
「休まなくて大丈夫?」
涼葉姉は心配症だなぁ…。
気持ちはわからなくも無いが。
「大丈夫だって。」
「う、うん…蒼くんがいいならいいんだけど…」
そんな事を話していると、萌が治癒をかけてくれたようで、身体が軽くなる。
ただこれ、能力の反動や切り傷等の小さい傷、ある程度の病気は治せるのだが、骨折等の大きい傷や単純な身体の疲れには意味が無い…というか、薄い様だ。
因みに、催眠は、1人に付き1つの事しか催眠出来ず、いちいち解除しないと新しい催眠は掛からないようだ。
「萌、ありがとう。……よし、そろそろ行こう。」