16*食屍鬼掃討作戦 /3/
「それでは、失礼します」
「ありがとうございました。」
「いえ。」
保健室に着くと、案内してくれた人が担当の人に説明もしてくれた。
その間、俺は保健室の中を見ていたが、どうやら、骨折レベルの重傷者は2桁を超えたようだ。
因みに、主に能力を持っていない、囮を担当した人達である。
ここには他の負傷者は居ないようなので、軽傷の人は戦線復帰か他の場所で休んでいるのだろう。
俺は案内してくれた人にお礼を言い、別れる。
雑用と言える仕事を任された彼だが、忙しい身のようだ。
「えーっと、そこの君が負傷者で、後ろの2人は付き添いだね?」
「はい。」
医療担当の男性に声をかけられた為、返事をする。
50~60歳くらいだろうか。
身長は俺と同じくらいで、白衣を身に着けている。
優しい笑顔を浮かべていて、初見の雰囲気だと好々爺と言った感じだ。
「じゃあ、左腕を見せてご覧」
俺はその人の指示に従って、左腕を出す。
「っ!」
「痛かったら直ぐに言ってね」
「大丈夫です。」
……………………。
…………。
「君は運がいいね。」
「運がいい?」
何の運が良いんだろうか。
……と言うか、骨が折れて運が良いことなんてあるのか?
「あぁ。かなり綺麗に折れているし、周りの影響も少ない。これなら、治るまでにそんなに時間はかからないんじゃないかな?…良し。君は…見た所元気そうだし、ここで休まなくてもいいかな?」
なるほど。
不幸中の幸と言う事か。
それに、行動も拘束されないと言うのも大きい。
俺としては、他の面々が戦っている所も見ておきたい。
「はい。ありがとうございました。……失礼します。」
…さて。
流石に、熊谷さんの所に行くのは不味いか…?
……いや、情報も聞きたいし、行くべきか。
「萌、涼葉姉!」
「蒼くん!」
「蒼にぃ!」
「お待たせ。…熊谷さんの所に行こう。」
俺が治療を受けている間、待っていて貰ったのだ。
熊谷さんの所に戻る事を2人に告げ、一緒に歩く。
「……もしかして、戦闘中に身体が軽くなったのも萌か?」
確か、戦闘中にも1度あったはずだ。
萌から短刀を受け取った時。
……そう言えば、詳しい能力を聞いてなかったな。
「うん。」
「そっか。萌、ありがとな。助かったよ。」
……………。
…………。
「熊谷さん。」
「ん…?あぁ、お前か…怪我は大丈夫…じゃ無さそうだな。」
声を掛けると、熊谷さんは俺に気付き怪我の具合を聞こうとし、腕に巻かれているガーゼを見て途中で切った。
「いえ。大丈夫ですよ。」
俺としては、ある程度なら大丈夫だと思うのだが。
……と言うのも、武の極み発動中は能力の代償以外の痛みが減るのだ。
その為、この程度の痛みなら恐らく気にならないだろう。
……まぁ、流石にこの状況で複数体相手は死ぬと思うが。
「いやぁ、俺達としても死なれたら困るんだ。休んどけ」
「なら、ここで見学させて貰えませんか?」
そう聞くと、熊谷さんは少し悩んだような素振りを見せ、面倒だと思ったのか溜息を吐きつつ、口を開く。
「はぁ…ま、いいか。いいぞ。西方面は人が少ないから、現地の状況を詳しく教えて貰えると助かる。」
許可が出た為、堂々と他の避難民達の戦いを見ながら話をする。
……あぁ、あの人影は言うべきか?
いやでも、見間違えかもしれないんだよな。
言っておくか。
「あぁ、そう言えば、見間違えかもしれないんですけど…」
「あぁ。」
「食屍鬼との戦闘中、人影みたいなのがあった気がします。ローブを纏ってて、男か女かすら分かりませんけど。」
「…………なるほど。ありがとう。」
これで聞きたい事が終わったのか、周辺地図と睨めっこを始めた。
俺は、視線を前に戻す。
ここは高所にある為、ある程度見渡す事が出来るのだ。
……他の避難民で目立つのは、3つ。
1つ目は、3人の男子大学生が魔法を連打している所だ。
3種類の魔法がどんどん飛んでいって、確実に食屍鬼を倒している。
……気になる所があるとすれば、あの戦法は囮が必須な所だろうか。
後、地域破壊がそこそこある。
避難所等の人が生活している所では使えないだろう。
魔法を打っている本人達は……楽しそうだな。
ただ、他の事をしないのを見るに、能力は1つか…?……いや、決めつけるのは良くないな。
隠している可能性もあるのだし。
2つ目は、あれは……あぁ、諏訪さんか。
諏訪さんが辺りを駆け回って、逃げ損ねた囮の人を回収して回っている。
……成程、人に人の役に立てと言うだけあり、自分も人の役にたとうとしている様だ。
言うだけでやらないやつよりマシか。
…良く見れば、指示も飛ばしている様だ。
能力だろうか?だとすれば、明らかに移動スピードが早い事も込すると、能力は2つと見るべきか。
恐らく、支援と肉体強化みたいなものじゃないだろうか。
囮をしっかり回収した後、仲間らしい能力者がこれまた魔法を撃っている。
見た所、あっちは負傷者無しのようだ。
人を大切にしている。
3つ目は、単身で食屍鬼に突撃している幼女。
…あの幼女、近くに仲間はおろか、囮すら居ない。
ナイフような刃物を持ち、物凄いスピードで移動している。
そのナイフからは炎が立っているが、その幼女は気にしていない。
そういう能力だろうか。
炎を纏う能力と、足の速さを上げる能力?だろうか。
あれは……俺の武の極みと同じタイプの戦闘っぽいな。
ソロ気質の様だ。