15*食屍鬼掃討作戦 /2/
「あ、あがァぁあっぐっ!がぁッ!」
勝利の余韻に浸る間もなく、能力を解除する。
その瞬間、俺は膝から崩れ落ち、身体中に焼けるような痛みが走る。割れるような頭痛に、劈くような耳鳴り。
最初に使った時と同レベル……いや、もっと酷いかもしれない。
思わず声が出てしまったが、他の食屍鬼を呼ぶ訳には行かない。自分の体を抑え、目を閉じなんとか声を出さないように堪える。
そうしてジッとしていると、足音が2つ聞こえてきた。
「蒼にぃ!」
「蒼くん!萌、治癒をお願い!」
「うん!」
痛みで何を喋っているのかはわからないが、声からしてどうやら、萌と涼葉姉が来てくれたらしい。
だが、今それ所では無い。口を開こう物なら、確実に痛みで叫び声が漏れる。
……すると、急に体が軽くなった。
未だに身体中の痛みはあるが、動けない程ではない。
俺は目を開け、痛みで顔を顰めつつも、ゆっくり起き上がって顔を上げる。
すると、涼葉姉が心配な表情で俺を見ている。
その横には萌が居て、目を閉じて額に脂汗を浮かべ、両手の平をこちらに向けている。
………もしかして、治癒だろうか。
そうだとすれば、急に痛みが引いたのも頷ける。
「あり、がとな、萌。涼葉姉も、戦闘、中2回、も助けられ、たよ。ありがとう」
「ううん。自分で着いてきたんだから、役に立たないとね!」
「もう…無理しないでって言ったのに…。」
萌は…多分、強がってるな、あれ。涼葉姉は明らかにホッとしてる。
……心配かけ過ぎたな…もっと、強くならないと。
それにしても、1体から2体に増えるだけでこうも苦戦するとは。反省点は多いな。
「ごめん。一旦、戻ろうか」
俺はそう言って、立ち上がる。
涼葉姉は俺が動く事に不安そうだが、戻る事には賛成なようで何も言わない。
そう言えば、戦闘中に見たあの人影。いた所を見ると、何も残っていない。
……見間違え、だったのだろうか?…まぁ、今は帰ろう。
……左腕は痛むが、足は動く。大丈夫だ。
……………………。
………………………………。
俺は、間違っても食屍鬼と会わないように念入りに索敵しながら、避難所の方に歩いて行く。
最初は走ろうとしたが、流石に転びそうになったので、諦めた。確実に生還する事を目的とする。
道中、最初に見渡した時は居なかったはずなのに、既に3体は見つけている。
………食屍鬼の数が、増えている?
何処から?
地面から湧いたとでも言うのだろうか。
…それなら、あの巨体が出てこれるサイズの大穴が数ヶ所あるはずだが。
そんな物は見掛けていない。
どういう事なのだろうか。
他に考えられるとすれば、そういう能力者で送る…とかか?
それにしても、何故そんな事をするのかが分からない。
駄目だ、情報が足りな過ぎる。
「戻りました!」
「…む?参加者か。……今は少しでも情報が欲しい!怪我をしているようで済まないが、先に情報を提供してくれ。」
避難所に戻ると、汗を流し、焦っている様な熊谷さんが居た。
恐らく、状況が掴めていないのだろう。
……もう、左腕以外の痛みは殆ど感じない。
耐えられる。
「分かりました!」
「すまないが頼む。」
「俺達が行ったのは西の方向です!最初に高い所に登り、辺りを索敵した時は一体しか発見出来ませんでしたが、戦闘中、もう一体が後ろから現れ、負傷しました。その後、何とかその2体を倒し撤退して来たのですが、道中、3体の食屍鬼を目撃しました。見つからない様隠れて移動したので、戦闘はしていません。」
「成程、情報感謝する。おい!こいつを保健室に運んでやれ!」
俺が話している間、熊谷さんは静かに聞いていた。
一通り聞き終わると、近くで書類を運んでいた人に声を掛け、俺を恐らく負傷者が集まっているであろう保健室への案内を任せた。
渋々ながら案内してくれる様なので、3人で着いていく。
俺も現状を確認したかったが仕方ない。少し休んでから、お願いするとしよう。