14*食屍鬼掃討作戦 /1/
「それでは、参加希望者は列に並べ!」
今、校庭の壇上で声を上げているのはWMHA、防衛部隊18班隊長、序列72位の熊谷 司と言う男だ。
顔はまぁ、俺よりは整っているくらいで、特段カッコイイとかはない。
興味も無い。
能力は2つらしく、肉体は細身ながらも力強さを持っている。
いわゆる細マッチョと言うやつだ。
参加希望者と言うのは、屍喰鬼掃討作戦への参加を希望している者だ。
強制ではなく、参加したい人だけ参加すると言った感じ。
因みに、特に活躍した人には少ないが追加報酬ありと先に行っている為、能力者も非能力者も集まっている。
今の所、能力者と非能力者で差別等は起きていないが、その内…と言うか、今回の結果で何か起きてもおかしくは無い気がするな。
能力者はそのまま戦力として。非能力者は索敵、囮等の役割がある。
差別が起きていないのは、能力者の家族はだいたい非能力者であり、能力者になったからと言ってこれまでお世話になっていた親や兄弟、友達等を急に差別したりはしないのだろう。
逆もまた然りだ。
因みに今回、作戦のトップは校長だが、主に指示を飛ばすのはWMHAだ。
基本、経験者の指示通りに動く。
班ごとに動かなくてはならないらしく、単独行動は厳禁だと。
能力を隠したい人は参加するなと言うことだろうか。
…因みに、この作戦、萌と涼葉姉も参加する。
俺と同じ班だ。
校長先生に頼み…もとい、半分脅して調整して貰った。
と言うのも、食屍鬼の死体蹴りから、俺がまだ能力を隠している事を察している様なのだ。
……まぁ、あんなにスパスパと頭を切りだしたらそりゃそうか。迂闊だったな。
俺としては、萌と涼葉姉が参加する事は反対だったが、萌に押し負けた。
取り敢えず、命に代えても守るつもりではある。
…お、どうやら、話が終わった様だ。
「それでは、作戦開始!」
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「にしても、こんなボロボロになってたんだな…。」
外に出て、食屍鬼を探しながらそう思う。
太陽の光に照らされて、映し出されているのは、家や塀が崩れ。
電柱が倒れ。
そこら中に血が固まった跡がある。
住宅街だった。
早朝は暗く、余り気にならなかったが、既に1週間。
かなり酷い状態になっていた。
食屍鬼が空腹で暴れ回ったのか。
それとも、家猫や野良猫を狩ろうと腕を振り回したのか。
……そう言えば、カラスはたまに見かけるが、他の生き物を見かけない。
そのカラスも、普段より上空に居る。
アイツらも、食屍鬼を恐れているのだろうか。
そんなことを考えつつ、食屍鬼を探す。
「……居た。」
見つけた食屍鬼は、単独行動だ。
そこそこ遠いが、ギリギリ範囲内だろう。
この食屍鬼掃討作戦、目的が周辺地域の安全確保なのだ。
その為、あまり遠くの食屍鬼は相手にされ無いだろう。
「涼葉姉、萌、行こう。」
「うん!」
「えぇ。」
武の極み発動時の力の入れ方を思い出し、出来るだけ真似る。
それでも、少しは移動の時になってしまう音が減って来た。
……やっぱり、変化があるとモチベーションは上がるな。
時折屋根上や2回に上がって位置を確認しつつ、近付いていく。
勿論、近くに他の食屍鬼が居ないことは確認済みだが、警戒は切らさない。
「良し、萌と涼葉姉は他の食屍鬼が来ないか、辺りを警戒してて。アレは俺が殺る。」
「蒼にぃ、頑張って!」
「蒼くん、無理はしないでね。」
近くまで来た為二人に指示を出し、辺りの警戒を頼む。
応援が有るのと無いとでは、やっぱりやる気が違う。
俺はいつもの様に武の極みを発動し、未だに俺達に気付いて居ない食屍鬼に奇襲を仕掛ける。
本当に、この感覚には慣れない。
この、動かされている様な感覚。
心の奥から、言葉に出来ない不安と恐怖が湧いてくる。
「……フッ!」
……しかし、毎回の如く奇襲を仕掛けているが、ほぼ確実に反応される。
今回も、左腕を斬ることは出来たが、やはり一撃で倒す事が出来ない。
いつも通り、ヒットアンドアウェイで後ろに飛びつつ能力を解除。
既に、この動作だけに限り毎日の反復練習のお陰か、殆ど痛みが来ないようになっている。
その時、視界の端に何かが映った。
…………人?
それは、赤茶色のローブを纏った人間の様だった。
ブカブカのローブで、顔はおろか体格から男か女かすら分からない。
「っ!」
一瞬そちらに気を取られると、左腕を切った食屍鬼が右腕を振りかぶり、突進して来ていた。
まずい!
再び武の極みを発動し、受け流しつつ左へ大きく避ける。
「蒼にぃ!後ろ!」
「っ!?」
その瞬間、萌が叫んだ。
咄嗟に振り返ると、別の食屍鬼が俺を殺そうと、既に拳を振り下ろし始めている。
どっから出やがった!
「くそがっ!」
俺は悪態を付きつつ、無理矢理跳ぶ動作を途中で辞め、腕を切った方の食屍鬼へ全力で突進する。
無理な体制になった為あまり強くぶつかれなかったが、食屍鬼の腕が異様に発達していたお陰でバランスを崩してくれた。
……いや、どうやら、涼葉姉が能力の風で食屍鬼のバランスを崩し、アシストしてくれたらしい。
食屍鬼は不自然な体勢になっていた。
先に一体片付けた方が良いと判断し、無理矢理な体勢から食屍鬼喉の辺りに短刀を突き刺す。
…折れたりしないといいのだが。
そのまま、短刀を抜く事は諦め距離を摂る。
離脱したその瞬間、後ろで、風切り音がなる。
…見ると、2体目の食屍鬼が一体目の食屍鬼諸共俺を殺そうと、腕を払った様だ。
短刀を諦めて良かった。
そこで手間取っていたら、死んでいただろう。
…………そして、わかった事がある。
食屍鬼単体なら、武器が落ちていても、それを使う事はないようだ。
俺の放置した短刀には目もくれず、何を考えているのか分からない赤黒い目で、俺を見ている。
ここで能力を解除すると、恐らく動けないレベルの痛みが来る為、後が怖いが解除は出来ない。
早く終わらせないと!
俺はそのまま突進し、蹴りを入れようとする。……が、その突進に合わせ食屍鬼が腕を振るう。
伏せるか跳ぶか…。
俺は、飛ぶことを選ぶ。
その理由は、伏せた場合そのまま地面ごと抉られる可能性があるからだ。
それに、涼葉姉が居るおかげで跳んでいる最中も離脱することが出来る。
普通なら、動きを制限され、隙が大きい跳んで避ける行為だが、この場合に関しては伏せるよりいいだろう。
そのまま武の極みに任せて、右腕の付け根を狙う。
「━━━━」
「っ!?しまっ━━」
その瞬間、食屍鬼が言葉になって居ない奇声を発する。
一瞬動揺し、動きが止まってしまった。
そこに、食屍鬼の拳が飛んでくる。
………武の極みでも、これは避けられないな。
武の極みは動揺しなくても、俺が動揺すれば身体の動きは止まってしまうようだ。
少しでもダメージを抑える為、両腕を前に出す。
「っ!」
俺の両腕と食屍鬼の拳が触れた瞬間、体ごと吹き飛ばされる。
どういう威力してるんだよ。
…だが、両腕を犠牲にした事が功を奏し、内蔵へのダメージは無い。
………両腕は、折れたんじゃないかと思う程の痛みを主張しているが。
………いや、左腕は本当に折れているかもしれない。
右腕は…動いてくれる様だ。
なら、まだ戦える。
吹き飛ばされたまま塀にぶつかる所だったが、涼葉姉が風でクッションを作ってくれた。
どうやら、既にかなりの距離で操作出来るようになっていたようだ。
「ありがとう、涼葉姉。」
俺は、小声で漏らす。
距離が離れてしまった為、聞こえてはいないだろうが。
2体目の食屍鬼は、俺を食べる為か近付いてきている。
チャンス。
俺は全力で走り、2体目の食屍鬼から距離を取りつつ短刀の回収に向かう。
肉弾戦じゃ、アイツを殺せる気がしない。
「蒼にぃ!」
1体目を倒した場所に戻ると、萌が短刀を回収してくれていた。
「ありがとう!」
萌から短刀を受け取り、2体目の食屍鬼を狩りに行く。
左腕は未だに痛みを訴えているが、無視だ無視!
早くしないと、そろそろ更に別の食屍鬼が現れる可能性がある。
俺は短刀を構え、2体目の食屍鬼に再び突進する。
その瞬間、身体が軽くなった気がした。
何度も同じ突進を繰り返す俺を見てか、食屍鬼が嘲笑っているように見える。
いや、そんな事はないのだが。
相手も再び、タイミングを合わせて腕を振るう。
俺は、腕の動きを注視し、振るわれる直前で、当たらないギリギリで止まる。
………既に長時間使用しているからか、急ブレーキだけでも体に痛みが走る。
また、最初の様に倒れてしまえば、ここには赤城さんも居ないのだから助けてくれる人もおらず、「死」あるのみだろう。
そんな俺の眼前を、食屍鬼の巨腕が通る。
その攻撃と共にくる突風で倒れそうになるが、何とかこらえ、食屍鬼が攻撃を外し、隙をさらしたタイミングで再び全力ダッシュ。
懐に飛び込み、首に短刀を入れる。
食屍鬼の攻撃はだいたい大振りだ。隙を晒せば、防ぐ事は出来ない。
俺の振るった短刀は、しっかり食屍鬼の喉元を掻き切った。