11*避難所生活 /5/
あの後は、涼葉姉と久しぶりに談笑したり、情報共有したり、一緒に能力の訓練をしたりしていた。
既に萌も起きて、避難所の集会が終わった所だ。
どうやら、この避難所を守っていた人達━━WMHAの人らしい━━と情報を共有して、能力者について知ったらしい。
そして、能力者を見つけ出そうとしているようだ。
……だが、強制ではなく、かつこの学校の校長にだけ伝える、というのでも良いらしい。
俺としてはこの判断、英断だと思っている。
これなら、強制と口で言うよりも自主申告する人は多いだろうし、能力者を下手に刺激しない。
集会の後は、朝食だ。
腐り易い肉や魚から主に出る。
ただ、飲み物系は偉い人、金持ちが全て占領しているようだ。
……これから先、お金が今まで通りの価値を持っているかは甚だ疑問だが。
「涼葉姉、俺は“店”と“倉庫”だけ申告してくる。涼葉姉と萌は能力無しで通してくれ。」
このふたつを申告して、武力をチラつかせ利用してこようとするなら、こんな所には居られない。
その時点で、ここを出ていくことは確定。
涼葉姉と萌を守る為には、俺が囮になって確かめる事も必要だ。
それに、俺の能力が強い事は、食屍鬼を簡単に殺せる赤城さんのお墨付き。
そんじょそこらの奴には負けない筈だ。
負ける訳には行かないのだし、負けるつもりもないが。
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「俺の能力はこの2つです。」
俺の話を聞いていたのは、この避難所になっている学校の校長。
40~50歳くらいの男性で、優しそうだが、芯を持った雰囲気を出している。
「申告して下さり、ありがとうございます。…質問なのですが、死体の1部、例えば腕等を刃物で刺したりしても、ポイントにはならないのでしょうか?」
それを聞き、盲点だったと目を見開く。
そう言えば、死体蹴りはどうなのだろうか。
そもそも、食屍鬼とは生きているのだろうか。
……試してみる価値はあるかもしれない。
「…わかりません。試した事はありませんから。」
「成程…もし良ければ、私からWMHAの方々に頼んでみるので、試してみては頂けませんか?」
…これは、願ってもない事だ。
「俺としてもお願いします。自分の能力はしっかり把握しておきたいですから。」
それを聞くと、校長先生はにっこり笑って頭を下げた。
「それでは、戻っても大丈夫ですよ。重ねて、ありがとうございました。」
俺はそれを聞いて、話用の別室を出る。
そして、それを涼葉姉と萌にも話す。
「…聞いた限り、良い人そうだね。」
「今の所は、な。」
「…蒼くん、無理は…しないでね。」
「わかってるよ、涼葉姉。」
必要なら、無理もするが。
涼葉姉と萌を、心配させないようには善処する。
「そうだ、渡したい物があるんだ。ちょっと着いてきて。」
そう言って、俺は避難所の外に出る。
…萌と涼葉姉は、しっかり着いてきてくれているようだ。
「…この辺でいいかな。ちょっと待ってね。」
建物の影で、人は見当たらない。
意識を集中させて、“倉庫”を発動させ、中のオレンジジュースを取り出す。
……やっぱり、かなり時間がかかるな。
オレンジジュース1つ出すにも、1分もかかるのだ。
戦闘中に使うのは、とても現実的じゃない。
「はい!二人で飲んでね!」
と言って、オレンジジュースを渡すと、涼葉姉は驚いた表情になり、萌は目をキラキラさせている。
「いいの?」
「うん。」
「やったぁ!」
「ありがとう、蒼くん!」
涼葉姉の笑顔を、久しぶり見たかもしれない。
やっぱり、家の女性陣は顔がいい。
1年前に死んだ母も、若い頃は人気者だったと、数年前父が言っていた。
しかも、涼葉姉に関しては、スタイルもいいのだ。
暁兄によると……学校でも人気者だったらしい。
クールビューティ系の美女が同じ学校に居たら、そりゃ人気になるよなって感じだ。
……。
やっぱり、まだ暁兄の事を思い出すと、苦しくなる。
少ないからか、喉が渇いていたのかは分からないが、既に2人は飲み終わったようだ。
萌の笑顔は癒されるなぁ…。
「さて、中に戻ろうか。」
「うん!ありがと!蒼にぃ!」