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正体が分かっても恐いものは恐い

「こ、これは…」


旧校舎に侵入し繋がらない階段を下りると、なんとそこには暗闇に散乱する人のものと思わしき白骨死体の数々。まさに死屍累々でござる。


「こいつぁやべえもん見つけちまったな」


「ええ」


刑事二人は実に落ち着いている。流石でござる。くぐってきた場数や経験が違うというものか。吾輩のおてぃんてぃんはひゅんひゅんしているというのに。


「ちょっとやそっとの数じゃないですね。何か事情がありそうだ」


「こっちは…砕けたコンクリに変形した鋼板だな。なんだか事件じみてきたぜ。こんなことをするのは人間しかいねえ。人間しかいねえなら恐えモンはねえ」


「ナンマンダブナンマンダブ」


建物は古くカビの臭いさえしていたというのに、似つかわしくない近代の物質。階段の上を見ると空いた穴はけっこうな大きさで、もちろん鋼板もそれなりの大きさ。これを口裂け女が用意したとは考えにくい。もはや火を見るより明らか。敵は決して化け物でも怪談でも都市伝説でもない、人間でござる。


「しかしござるくん、七条の言ってた通り珠姫ちゃん並みだな」


吾が輩の怪力を目の当たりにした杉田さんは感心していた。うーんでも姉上は吾が輩みたいにきっかけがあったワケでもないし、あの人は本当に謎でござる。


「念のため持ってきたんですが、こんなもの必要なさそうですね」


「お前それちゃんと書類書いて持ってきたんだろうな」


「いいえ?」


なに食わぬ顔で懐から拳銃を出し、平然と無断持ち出しをしれっと言ってのける。


「なんだとぅ?! 七条、お前帰ったら覚えとけよ」


「ああいえ、そういうことではなくて、本部長が直々に持っていっていいと」


「本部長が…? なんで本部長が出てくるんだ。あの人にはまだ何も言ってないし報告だってしてないぞ」


「さあ。意図も理由も俺には分かりかねます」


七条さんがすっとぼけている。しかしこの人は隠し事が下手な人。これは本当に裏事情がありそうでござる。わざわざ本部長さんが出てくるということは、誰かが圧力なりなんなり働きかけをしている…かもしれないでござる。


「取り敢えずここで突っ立ってても仕方ない。先へ行ってみるか…」


「ええ」


見取り図のないまま地下を進む。ときおり人骨を踏むが簡単に折れてしまう。相当な時間の経過によって風化していると思われる。他の様子はというと普通の学校だった。それも木造の。恐らく一階で見てきた風景と変わりがないでござる。


「職員室、校長室、保健室、便所…。一階にあった部屋がここにもありますね。それも全く同じ位置で」


「一体どうなってやがんだ」


「!」


塞がれて全く手入れがなく廃墟と化している地下で、地上と同じ造りに驚いていると突然七条さんが杉田さんに向かって発砲した。


「あっぶないだろなに考えてんだ!」


「囲まれました」


「でござる」


「なにっ?」


突然の発砲にもサッと反応する様を見ると杉田さんもまだまだ衰えとは程遠いでござる。決して広くはない廊下で、ガシャガシャとその体から音を立てながら次々と起き上がる白骨死体達に襲われる。その様を下りてきた階段から見て最奥、廊下の突き当たり。口裂け女が気味の悪い薄ら笑いを浮かべてを眺めていた。


「なんなんだまったく」


侵入した地下で胡散臭くなってきたと思ったら次々と立ち上がり襲いくる白骨死体達。どうやらただの仏さん達ではないでござる。そもそも論、あの口裂け女は火の玉を連れている。都市伝説と幽霊はそういうものもあるけど必ずしも同一ではないからして、自然発生の口裂け女本人ではないと思われるでござる。


「そぉい!そぉい!そぉい!」


「持ってきてよかった。いや本当に」


「くっ、俺だけ素手でどうしろってんだよ!」


「あ、忘れてました。どうぞ」


「俺の分も持ってんなら最初から渡してくれよ〜」


わらわらとどこからともなく続いてくる白骨達。七条さんと杉田さんが拳銃で応戦し、すり抜けてきたヤツには吾が輩の鉄拳をお見舞いする。しっかしこれじゃあ数が多くてキリないでござる。


「やっこさん、俺ら見て笑ってるぞ。気持ち悪い」


離れた廊下の突き当たりでこちらを見ている口裂け女。火の玉を連れているせいか、ぼんやりとではあるがこちらからも様子が伺える。口が大きいだけにただでさえ薄気味悪い顔がさらに気味悪くなっているでござる。


「頭を下げろござるくん。この距離なら…!」


ドン!と一発。階段側に立っていた七条さんが振り向きざまに放った弾丸は見事口裂け女の眉間を貫いた。口裂け女は白目を向いてのけ反ったでござる。薄暗い中、懐中電灯の明かりだけで離れた相手の眉間にど真ん中とはいやはやなんとも、けっこうなお手前で。


「相変わらずの腕だな、この距離で」


「く、くくククくくカカカカカカカ。こんなもので死ぬものカ」


「なにぃ?!」


貫通した衝撃でそのままの体勢で後ろにのけ反った口裂け女は平然と体を戻し、向こうが見える眉間がみちみちとうねりながら逆再生を…オエー。バ○オはなんともないけどこういうのはちょっと…。


「チッ、頭ブチ抜かれてまだ笑ってやがる…。本物のバケモンだぜ…」


「こりゃー、一旦どこか避難するでござる」


「保健室へ入ろう。すぐそばで一番近いし、いざとなれば上に逃げられる距離だ」


「ようし! そこをどけえええええッ!!!」


群がる白骨死体の山を力ずくで押し退けて保健室へ駆け込み、急いでベッドで出入口にバリケードする。さすが白骨だけあってそれほどの力はないのか、しばらく戸を揺らした後静かになった。


「ふう、これで取り敢えずはしのげるな。この地下といいさっきの骨といい、学校はどうなってんだ」


「………」


「七条さん、どうしたでござるか?」


駆け込んだ先の保健室にあった本棚の前で腕を組みじっと見つめている。彼が見つめている本棚は特に変わったところはない、なんの変哲もない木組みの本棚でござる。


「ああいや、巻数のある本がバラバラに置いてあるとどうにもむず痒くてね」


あ、さいでござるか…。几帳面な性格なのかそれともただ気になるだけなのか、こんなときにも関わらず本棚の本を手際よく綺麗に整理整頓してしまったでござる。


カチッ


「「「『カチッ』?」」」


何かスイッチを押したような音が聞こえた。と思ったら本棚が横にズレて後ろから小さな棚がもう一つ現れた。開けて中を取り出す。


「これは…鍵? それと日記?」


中にはどこかの扉を開くであろう錆びた古い鍵と、日記らしき厚い本が一冊だけ置いてあった。一体なぜこんなところに、こんな風に隠されていたでござる? 本の表紙には『人体実験観察日記』とあった。


「じ、人体実験………だとぅ?!」

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