表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/202

授業参観

「授業参観?」


銀行強盗の帰り、サロンでマッサージしてもらっているとそんなことを頼まれた。


「そ、授業参観」


「誰の?」


「スカイのよ」


スカイ……航空会社にあらず。中国で初めて一緒になったあの南米の王女様。そういえばスーさんは会長のお屋敷に住んでると話していたでござる。


「スーさんは学校に通っているでござる?」


「あら、聞いてないの?ウチの学園に通ってるわよ。まあおばあちゃんが連れてきたからウチで面倒見るのは当たり前なんだけど」


なにそれ初耳。だけど王女を国から連れ出すあたりはやはりというか恐らくというか会長のおばあちゃんじゃないと無理な希ガス。そう考えると自然な流れでござる。


「前は誰か空いてたけど今年は皆塞がっちゃったし、ござるくんはあの子のこと知るにはちょうどいいかなって」


「あの子ことを知るもなにもあのまんまだと思うんですが……」


「それがそうでもないらしいのよ」


心配そうに語るレイミさんはオカンみたいでござる。言ったら怒られそうだけど。


「どうにも日本の学校に馴染めないみたいで、毎日一人でいるって」


「へえ、あの元気っ子が」


これは意外でござる。無邪気で元気の塊なあのスーさんがボッチだとは。あれでもスーさん普通に日本語話せてたのに。シオンライブ襲撃事件の時には変身姿でちょっと顔だけ合わせたくらいで、中国ではほぼほぼ初対面の吾が輩と普通に仲良くしてくれたでござる。人見知りではなさそうなのに。


「喧嘩するとかいじめられてるとかそういうことじゃないらしいんだけどね。いじめられてなんかいたら消すし」


「くわばらくわばら」


「ということで明日ね」


「卑怯でござる。わざと直前に話して断れなくするなんて」


「スーツで行ってね?」


「はいはい……、っていやいや、ヒキニートがスーツなんか持ってないからして」


「帰りに本社寄って行きなさい、言ってあるから」


「はい……」


いい感じにパシりでござる。まあ、あのスーさんが一人ぼっちというのはちょっと気になるけど。


「あとこれ、お財布に入れとくわね」


うつ伏せでいる吾が輩に見えるように紙を持ってきた。何か書いてある。病院と病室の番号?


「いつかの魔術師の病室。快復してきて面会許可されたし、キミならお見舞い行くかなって」


「あの時庇ってくれたお礼をちゃんと言ってないでござる」


キレたシオンさんを止めるのに、何故か罠を仕掛けた敵が助けてくれたという珍事。ちゃんとお見舞いに行ってお礼を言うでござる。


「あの銀座の一件はサード・アイと話し合いになってね。こっちが悪いことにしていいけど、代わりに彼の再就職先を手配しろって」


「再就職先?」


「あの人、一応責任取ってクビってことになったから。秘密結社だけに」


「あ、すいません……」


「あなたは謝ることないわよ。シオンが『ファング』だって知らなかったのは向こうの諜報部がヘボだからだし、通行人に怪我させたのはシオンだし」


確かに吾が輩が何したってワケではないでござる。しかし当事者ではあるから申し訳ないというかなんというか。


「まあ、暇してるみたいだから本かなんか持っていってあげたらいいんじゃない?」


「でござるね」


「エッチな本はダメよぉ~?」


「じゃエロゲで」


「誰が自分の趣味を言えと」


ニヤニヤするレイミさんにさらっと答える。吾輩の世代じゃインストールするのが当たり前になってるけど、あのサラリーマン魔術師さんの世代ならディスクで持っていっても通用するはず。エロゲ持っていけば名曲も聴けて一石二鳥でござる。天使ちゃんマジ天使。


ってことではい翌日。


今日はスーさんの授業参観。慣れないスーツに身を包み(ぴっちぴっち)、武蔵野学園大学付属小学校に車で向かっているでござる。何故か朝指定。


(授業参観は二時間目から始まって四時間目まで。最後に給食を一緒に食べておしまい、という日程でござる。なんで朝?)


学園には縁がないし、用事もないし、初心者マーク。知らない道をカーナビの言われるがままに走っている。着なれないスーツに息苦しさを感じていると、ナビに武蔵野学園大学付属小学校が表示されている。そろそろでござる。


カーナビ<目的地に到着しますた。ナビを終了するでやんす。


「ええ? まだ壁伝いに走ってるだけでござる?

全っ然到着する気配がないんですがこれは」


来客だから来客用の駐車場に停めなければならない。ということで正面入口に回らなければならないと思われる。授業参観なんか初めてだし、学園に行くのも初めてだから勝手を知らない。土地勘ないからカーナビだけが頼りなのに、しかして一向に正門は見えてこない。飛ばせば景色も変わるかもしれないけど通学区だけに制限速度は低いし、そうでなくても飛ばせば危ない。


(困った……、このまま走ってていいでござる?)


取り敢えず走り続けているとスーツなのに猛烈な勢いで走っている眼鏡の女性を見つける。もしや同じ行き先? 拾ってしまおう。最徐行して近づき運転席の窓を開けて声を掛けるでござる。


「あのー、すいません。武蔵野学園大学付属小学校はこの方向でしょうか?」


「えっ?! あっ、はいそうですがっ?!」


「駐車場まで案内していただいていいですか?今日授業参観なんですが正門に辿り着かなくて、乗ってもらっていいですか?」


「やったっ! じゃなくてありがとうございますっ! こちらこそっ、お願いしますっ!」


スーツの女性は乗るとズレた眼鏡を直し、バッグからペットボトルを取り出すと一気に飲み干してむせた。首から職員証を下げている。これはラッキーでござる。こぼれた飲料水が白いブラウスを派手に濡らせて下着が透けて見える。


「わああっ」


「あ、タオルをどうぞ」


運転席のシートの後ろにあるポケットに手を突っ込んで手渡す。この慌てよう、ひょっとして新任の先生で授業初日から遅刻しそうだったとかそんなところだろうか。


(ベージュ。流石に配慮しているでござる)


「すいませんすいません。いやー完全に遅刻でした、すいません。あ、道はこのままでお願いします。武蔵野学園は校庭だけでも大学から小学校までみんな東京ドーム何個分もうみたいなものですから、広くて広くてもう……」


「ひょっとして学校の先生ですか?」


「ハッ! そう言うあなたは代理のござるさんじゃないですか!」


「えっ」


「お嬢様からあなたと車の写真をもらっています。本当に熊みたいなお方なんですねー」


プライバシーってなんだっけなー……。顔はまだしも車までお漏らししなくてもいいのに……。


「あ、自己紹介が遅れました。私はスカイ・アルバトロスさんの担任で佐藤浩子と申します」


「えっと、戦野武将と申します。……ん? アルバトロス?」


「そういう偽名です」


偽名。そうとは聞いてもないのに偽名とすっと出てくるってことはこの人は吾輩達に近いのかな?


「なるほど。ちょっとお聞きしたいんですが、スーさんが学校に馴染めていないと聞いたんですが」


「ああ……、それでしたら四時間目が体育なので見てもらえたらすぐにお分かりになりますよ」


その後何故か中に連れてかれて普通に職員会議で紹介され、校長先生とお茶して、二時間目と三時間目の授業参観を終えたでござる。スーさんは吾が輩に気付くと授業そっちのけでお腹に飛びついてきた。


(さて、問題の四時間目。体育のお時間でござる)


ここまでなんともなく進みクラスメートとも仲良くしていた。一体どのあたりが馴染めていないというでござるか?


「おおしッ! にーちゃんに良いとこ見せなきゃッ!!」


「やべえ! スカイが本気出すぞ!」


グラウンドに移動してサッカー。なのだがなんかおかしい。クラス30人いて29対1。スーさんだけ一人? 待った待った。こんなのいじめられてるなんてレベルじゃな(ry


「おりゃあああッ! タ○ガーショットオオオオオッ!!!!」


「ぎゃああああッ!」


「上がったぞ! 合わせろスカイッ!」


「よしきた!」


「「スカイラブハ○ケーンッ!」」


「ひいいいいいい!」


「あいつどっちの味方だ!」


「ちょっと男子ー、真面目にやんなさいよー」


「やっとるわー!!!」


「いやあねえ、ウチの子根性ないわあ」


「なんじゃこりゃ……」


スーさんが蹴ったボールは某キック力増強シューズよろしくカッ飛び完全に殺人シュート。男子達が次々とコートから弾き飛ばされていく。というかキミらよくその技を知ってるね、時代違くない?


「スカイさんは手加減というものが出来ないんです。小学生だからしょうがないんですけどね」


「ああ〜、馴染めないってそっち〜」


ぼっちっていうか、頂点。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ