前略、天の道の上より
「はぁ…はぁ…はぁ…」
あれから2時間。息は絶え絶え、汗は滴り、砂漠の暑さに耐えかねていた。要は苦戦しているでござる。
「ったく、アメーバでござるかこのトカゲ野郎」
「斬っても叩いても毎回毎回生えてくるんじゃキリがないよー」
「ゲッゲッゲッゲwww」
笑ってる。このトカゲ野郎…、クッソ腹立つでござる………。
「あっつ……、仮面外そ」
「仮面外したら顔バレして正体が…」
「吾輩は変身したら無条件に姿も顔も変わるからいいんでござる。しかも姿変更のみの使い分けも可能」
「あー、ずるーい!」
「さらに口調も直してしまえば特定など不可能でござる」
「直す気なさそうだけど」
一旦剣を納めて仮面をポイ捨てする。滲んだ汗を手で拭い、脂ぎった髪をかき上げる。
「鎧が冷たくて気持ちいい…?なんで?」
手甲の部分をおでこに当てる。この灼熱の熱射の中にあっては鎧などそれこそ目玉焼きでも焼肉でも焼けそうなほど超高温になっているはず。それがどこかひんやりとしていて、まるで冷水のよう。
「玄ちゃんや白虎、青龍はそういう特性を持ってるんだってさ。逆にカレンの朱雀みたいな焔系だったら今ごろ暑さでぶっ倒れてる。もっともロイヤルセブンで焔系は朱雀が唯一だけど」
『えっへん』
「玄ちゃんって玄武でござるか……」
『ほらほら、早く倒して偉い人助けに行きましょう』
「そーは言いましてもこうキリがないんじゃー…」
もう一度剣を抜き、右膝から下を斬り飛ばし体勢を崩させる。その隙に腹に斬りかかろうとすると左足が飛んでくる。
「ぶへっ!またでござる!」
これで何回目だろうか、砂の大地に叩きつけられて埋まる。強さこそそれほどでもなく、むしろ弱いくらいだ。だが幾度となく再生する。
「なんか手はないのでござる?」
「実は負けイベント…?」
「なワケあるかーい」
しかし解せぬ。いくらなんでも何度も再生するエネルギーは無尽蔵ではないはずでござる。自分の超再生とて万能ではない。体力や精神力が尽きれば再生スピードは遅くなり、最悪回復しなくなる。そうなればもちろん死ぬはず。
「…どっかにバフ掛けしてるヤツがいるとか?それともE缶でも持ってるでござる?」
「お…?おお……!!おおおおお………!!!」
「どったの?」
ロリッ子が首を傾げて何かに気付いたようだ。いやもしかしたらあまりの暑さに頭がおかしくなったのかもしれんでござる。いくら熱くならない能力があると言ってもそれは鎧だけで身体ごと冷えてるワケじゃないですしおすし。帰ったらプールに入りたい。
「にーちゃん、アイツ縮んでる!」
「はあ?いくら怪獣でもそんなワケ……」
まさか、そんなことが。やはり暑さでどうにかなってしまったのかと思った。ヤツを凝視しても縮んでいる風には見えない。
「いーから見てて!」
飛び出すと猛烈な勢いで怪獣のありとあらゆる部位を破壊していく。破壊された部位は光の塵となって消えてゆく。
「そいやっ!」
再生と破壊を目まぐるしく繰り返す。
「そいやっ!そいやっ!」
「頭潰しても生えてくるのは気持ち悪いでござるな……」
「ゲゲェッ?!」ガーン!
「そいやっ!そいやっ!!そいやっ!!!そいやっ!!!!」
一時間後。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ!どう?!」
「マジで縮んだでござる……」
「………。あっ、お疲れさまでした~」
「『あっ、お疲れさまでした~』じゃねーんだよこの爬虫類!なに普通に喋ってんでござるか!!!」
最初は東京タワーと同じかそれ以上あろうかという体に恐ろしいほど大きな翼。それがいまや同じ身長も無く、鳩にも負けそうな翼。
「うっ、うわあああああん!」
自暴自棄に陥ったのか、涙と鼻水を垂れ流しながらよちよち襲いかかってきたでござる。きったねえ。
「リエッセさんに言わせればバァカでござる」
吾輩の必殺技は天の道を行き、総てを司る男に憧れて編み出したんでござる。
「ハアアアアアッ!」
十文字斬斬斬!!!!
『十文字なのに一回余分に斬ってませんか?』
「こまけえこたあいいんでござる!!」