天翔る豚の閃き
「ええい！クソ！なぜだ！なぜこんな家畜だか備蓄食料だか区別が付かないヤツにこのボクが投げ飛ばされなければならないのだ！」
「生物ですらない。家畜でも備蓄食料でもありませんでござる」
せめて生き物でお願いします。
「まあいい、涼しい顔をしていられるのも今の内だ！変身！」
「！」
何度も遠慮なく投げ飛ばしたらどうやらプライドをへし折ってしまったらしい。怒らせてしまったでござる。ボンクラさんは何かを取り出し左手に嵌めて変身した。
「ふぅーははは！変身できるのはお前らだけじゃなぁーい！！！」
どこのマッドサインエンティストかな？いやそんなことはどうでいい。変身した？いやなんだろう、吾が輩と同じ真っ黒な鎧なのに全然違って見えるでござる…。エラい禍々しいオーラが発せられている。あれは果たして変身と呼んでいいでござるか…？
「死ねぇ！」
「ヤクザキック！」
「ぐべえ！」
「どこでそんなアイテムを手に入れたのか知りませんが、ただヘシンするだけならなんでもないでござる。わざわざ吾が輩がヘシンするまでもない」
「クソ…、クソ……、クソ……。こんなはずじゃない、こんなのはボクじゃない………。くそぉぉぉぉ！！！」
「あっ！」
「ああああ！」
「ぐわあっ！息子よ！何をする！」
「姫様！」
確実に開いている実力の差にどうにもならないと現実を知ったのか。ついにやってはならないことをやってしまった。今彼はあちら側の立会人として見届けていた外套の少女を人質に取り、頭に拳銃を突きつけている。
「いやっ！はなしてぇ！」
「ハハハハお前ら全員動くなよ！動けばこのガキの頭がどうなるか分かるよなぁ？！」
「この…！」
失態でござる。いくら相手が弱いからって舐めプし過ぎたでござる。
「やめろ息子よ！お前自分が何をしているのか分かっているのか！」
息子…？じゃああの御方は国家首席の…？でもニュースやネットで見るその人とはちょっと顔が違うでござる。何か事情があるでござるか。
「さあ！このガキを殺されたくなかったら神剣を渡せ！」
「あ…あ…、うわあぁぁぁん！」
「うるせえんだよクソガキ！静かにしてろ！」
「ううっ、秘書ねーちゃん…。ボクの玄武だけでも…」
「ダメです、あの姿も発せられているオーラも邪悪そのもの。渡せばなお悪い事態になります」
人質に取られたあの少女の正体といい、このボンクラのお父上といい、どうにも秘密が多い。どういう事情でこうなったかは後で秘書さんからゆっくり聞かせてもらうでござる。とりあえず今はあのボンクラをブチ殺す。
「『姫様』はテメーごときが触れていい存在じゃねえでござる」
「ああ？あっあっあっ」
「わっ」
「凄い……」
ただの一度のまばたきをも許さない一筋の閃き。
「ああああああああ！腕が！腕が！！ボクの腕がああああああああ！！！」
「まったくこんなもの……」
拳銃が握られたままの腕を放り捨てる。夥しい量の血が噴水のように溢れて飛び散る。
「秘書ねーちゃん、お兄さんまだお話もできないって言ってたけど仮想化したの？」
「……いえ、四神剣は皆さん意思を持っていますから同意がないことにはしたくても出来ません。まさか直接喚んだと言うんですか？ありえない……」
「でもお兄さん、腰に青龍があるし…。今一瞬で変身して抜いて納めたってことでしょ？ボクも全然見えなかったから信じられないけど…」
抱き上げた少女をゆっくり降ろす。
「ほら、お姫様。お姉さんのところに」
目尻にたっぷり溜まった、今にもこぼれ落ちそうな涙を指で拭ってやる。
「うん……」
「姫様！」
あの『姫様』とやらの顔は実は車から降りたときちらりと見えていたのでして。本当に隠しているのはなんなのかも見えた。どうやら異世界人から侵略を受けているという話は本当のようだ。あの子はは人間じゃないでござる。あの付き人もだ。
「貴様ァァァァァ！」
『「お前に掛ける情けはない」』
逆上して襲いかかってきたクソ野郎に、剣を突き刺した。
