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その女、狂犬につき2

「んでんでんで、どうするんでござる?」


「無理矢理止めるなら気絶させるしかあるまい。他に彼女を大人しくさせる手段があのなら、話は別だが?」


「他に、手段ねえ…」


たった一度の雄叫びでショーウィンドウは全て吹き飛び、一本爪が飛んできたら鉄筋ごと抉られる。しかも足元はスケートリンクでござる。


(無茶苦茶でござるこんなの)


「神さまにお祈りは終わった? 私に命乞いする時間はないわよ? 絶命するまでのほんのわずかな時間ですらも、骨の髄までしゃぶりつくしてアゲル」


「そんな犬用の骨じゃあるまいし」


「は?」


鉤爪を巨大化させ、引きずりながらガリガリと地面の氷を削りながら歩いてくる。彼女の体の半分もあるだろう鉤爪で氷を剥がしその塊を飛ばす。


「つあ!」


地面に張り付いているだけの厚さなら拳で砕く。下手に避ければ何かの拍子に現実世界で被害が出る。なら出来る限り受けるしかないでござる。


「誰が犬だ!」


「アダ名通りの狂犬です本当にありがとうございました」


「オラァ!」


「あひょい!」


急接近し斬りかかってくる。ビジネスマン魔術師さんと左右に別れて避ける。外れた彼女の鉤爪は地中まで抉り、水道管を破裂させ水が柱となって噴き出し、そのまま凍りついた。


(おいおいマジですか。あんなの食らったらバラバラ惨殺死体にされてしまうでござる)


「オオオオオオオァッ!」


突き刺さったままの片手を無理矢理持ち上げ、張り付いた氷どころか舗装されたアスファルトごとバラバラにしながら再び斬りかかってきた。


「ぐわっ!」


細かい破片で視界が一杯になりファングを見失ってしまった。両手で破片を弾き飛ばしながら少し後ろへ引く。と、瞬間左頬を何かが掠めた。


「ッア!」


当たらなかった、運良く避けたと思ったら仮面が砕け掠めた衝撃だけで背後のビルに叩きつけられた。轟音を上げながら壁面に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。


「く…あ…」


「青年!」


「惜しい。一撃で死ねば楽だったものを」


頭が揺れる。視界が霞んではっきりしない。意識が遠のく。気持ち悪い、吐き気がする。体が言うことを聞かない。崩れ落ちて、ようやく見上げると、温かい血に餓え狂った白い獣が獲物を冷たく見下していた。


「あなたは今日付き合ってくれたから、サクッと首落として楽にしてあげる。本当はもっといたぶって生きているのが不思議なくらいにまでしてから殺したかったけど」


「やめろォ!」


「どけ」


「ぐあっ!!!」


間に割って入ろうとしたサラリーマン魔術師さんがまるで羽虫のようにひっぱたかれ軽々と吹き飛ばされる。地面を砕きながらてんてんとゴムボールのように転がった。彼はぴくりとも動かなくなった。


(鍛えているようには見えない……、そういう類のものじゃない………。けど最初の標識といい、このパワーは異常でござる…。吾が輩が能力によって得られる膂力と同じと言ってしまったらそれまでだけど)


かろうじて入る酸素は肺を満たすが同時に凍えさせる。絶対零度にも思えるこの寒さに吐く息は白く、しかし気道すら凍りつき吸う息は肺に届かない。フルアーマーを保っていられない……。


(ほんの一瞬、一瞬だけでいい…! 一撃必殺の気合いを…! 吾輩に、チャンスを……!)


「ゲホッ、ハッ、ハッ、ハッ……」


「なに?立ち上がるの?余計苦しいだけだから寝てなさい。今ラクにしてあげるから……」


静かに振り下ろされる神剣。真っ白いツメが死者へ手向ける白い花のように見えた。スローモーションで時が進む。ああ、これが死ぬ間際の走馬灯というヤツでござるか……。


「オリャアアアアアッ!!!!」


「!」


一陣の風が吹き抜ける。


「ゲフッ…、ク、クロスカウンター…」


彼女は二度、血を吐いた。彼女を支えるだけの力はもう無い。腹に突き刺さる拳に耐えきれず、鎧が形を失っていく。眼に入った血が痛い。変身が溶けて、二人の男女が抱き合って転がる。


(あー、おっぱいやわらけえ…)


ちょっと揉んどこ……。

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