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その女、狂犬につき

「変、身…」




彼女は静かに冷たく呟いた。凍える耳が本当にはっきり聴き取ったのかどうかは分からない。けど、間違いでなければ確かに彼女は『変身』と言ったでござる。


「い、凍てつく厄災…。巨大な白い鉤爪、歩くブリザード…」


『ファング』。全てを噛み砕く者。その荒々しさと狂暴さから付けられたアダ名は『狂犬』。その名に違わぬ鎧。真っ白い獣の逆立った毛皮を想起させる狂器。まさかシオンさんがファング…。


「バカな!ターゲットがファングだと?!聞いてないぞ!」


吾が輩も聞いてないんでござるが?!


「あんた、誰に喧嘩売ったのか分かってんの……?」


こんな極寒の中に生身でいたら吾が輩まで死んでしまうでござる!


「ヘシン!」


フルアーマーになり取り敢えずの生命線を繋げる。仮面もフルフェイス。でなければ頭蓋骨ごとどころか脳ミソごと凍ってしまうでござる。


「くっ、お前のその能力は危険だ!そして貴様のその鉤爪。それは四神剣『白虎』!貴様のような危険人物が持っていていい代物ではない!」


「知らないわよそんなこと。コイツはアタシを気に入ってるし、アタシもコイツを気に入ってるのよ」


四神剣『白虎』!なんと……、正体を出せないのは吾が輩だけじゃなかったんでござるね。この間はまさか狙われている歌姫本人が変身するワケにはいかないから、他のメンバーで対応することになったと。


「今すぐ土下座でもなんでもするなら許してあげるわ。そうじゃないなら……」


「待った!」


「ああん?」


ビジネスマン魔術師とファングの間に割って入る。これはマズイ。日曜の昼盛り、銀座には多くの人々が訪れている。そんな中で向こうと繋がっているにも関わらず暴れまわったら、とんでもない被害が出てしまうでござる。


「邪魔すんじゃないわよ新人、ぶっ殺すわよ」


「シオンさん、ここは我々も魔術師の方もお開きでおあいこにするでござる!こっちの建物に被害を出したら現実世界にいる人達にさらに怪我人が出る!」


「……私はその提案に乗ろう。シオン・アスターがファングだったということにも目を閉じよう。既に社訓に大きく背いているからな。というか青年、キミ八人目だったのか」


「ザケんじゃねーわよ!人の貴重なオフ!それも一週間も取れたのに!こんな最悪な休みはないわ!」


「いや、だから、そこを曲げて……」


「ウオン!」


「ウェ?!?!」


「青年!」


荒ぶる狂犬を説得するも決裂に終わり雄叫びでブッ飛ばされる。すんでのところでビジネスマン魔術師に庇われてことなきを得たが、庇われる一瞬で鎧が凍りついてしまったでござる。


「大丈夫か青年」


「フンッ! ええ、なんとか。助かりました」


体に思い切り力を込めて凍りついてしまった鎧を一度砕いて、再生成する。


「あれは虎砲というヤツだ。衝撃波と思っていい。あれをマトモに食らったらこうなるぞ」


「えっ?」


言われて周りを見渡す。ウィンドウというウィンドウは全て砕け散り、建物すら崩れかけている。雄叫び一つでこれほどとは…。


「本当は守れるなら全て守りたいが……、自分とキミで精一杯だ。今のは鎧だけで済んで幸運だったな」


血の気が引いた。この時誰かに顔を見られていたら『具合が悪いのか?』と、問われても仕方ないくらいに青ざめた。こんなことをしたら今ごろ現実世界は……!


「何やってんだよ……、何やってんだよ!!!」


「売られた喧嘩を買ったまでよ。邪魔をするならアンタもシになさい。だいたい、『ロイヤルセブン』だの『ファング』だのアタシは名乗った覚えはないの。世界平和?ハッ!それこそ知ったこっちゃないわ。私に喧嘩を売ったヤツには必ず不幸になってもらうの」


「もうやめろって言ってんだろ!」


「そんなにやめさせたきゃ、なら止めてみせなァ!」


「!!!」


完全に頭に血が上ったファングの鉤爪、四神剣白虎が首めがけて飛んできた。いや飛ぶんかいそれ!反射的に避ける!いや本当に偶然体が反射で動いただけだった。命の危険を一瞬で反応できた今の自分には拍手を贈りたいでござる。いた所を振り向くと後ろの建物がざっくりと抉られていた。鉤爪が飛ぶとかそんなんアリかい!


「青年、こうなったのは私の責任だ。このお札を持って走って逃げろ。しばらく走ればこの世界から抜けられる」


「この被害の始末はこちらの責任ですよ。あのワンワンの首に縄着けてでも連れて帰ってゴメンナサイさせませんと」


「……ひょっとして、私達は気が合うか?」


「かもしれませんでござる?」


「ウオオオオオオオオオオオオオオッ!」


連れて帰ったら三回回ってワン!させてやるでござる!

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